鬼灯渓谷の上空500メートル。真夜中になると、無数の火の玉たちが大気中を漂いながら、ちらちらと光を投げかけている。この異界でも知られる幽体農園「うつろ野」で、先日、“雲上AI”が農場管理を一手に担うスマート農業システムが完成した。生前は養蜂家だった火の玉集団「灯守(ひもり)」が、新たなアグリテック革命の旗を振る。
「『収量予測も、土壌診断も、魂の重さで計る時代です』」と語るのは、灯守のリーダー・焔夜しずる(年齢不詳)。彼女らの農園では、AIが設計した“浮遊プラットフォーム”が雲の中に設置されており、そこに眠る骨粉や魂のかけらが自動で撒かれる。幻想的な雲上の畑には、あの世向けの特別な菜園作物——幽夜葱やあやかし小麦などが栽培され、地上から浮かび上がる光の筋で、その生育具合を遠隔監視しているという。
AI開発の中心を担った技術精霊・雫形アル(379)は、「我々のクラウド(文字通り“雲”)は天候にも左右される。そのため気象情報から魂の反響振動まで、複数の『あの世データ』を複合分析する必要があった」と語る。精密農業の根幹をなす土壌診断も、特殊な幽気センサーによって雲粒の密度や霊圧、火の玉同士の親和性を定量化。これまで闇雲だった収穫予測も正確度が大幅向上、作物の幽香(ゆうこう)など“死後”特有の成分を調整することも可能になった。
8月上旬には異界市の農政局と合同で、初の“透明収穫祭”が開催された。大勢の妖怪や精霊、果ては地縛霊たちが、雲上畑から収穫された光る作物を手土産に大集合。「人魂葱のシャキ感が違う!」「雲上小麦のパンは指を透き通す」とSNSでも話題になった。妖精フード評論家・淡雪ことりは「幽体農業にコミュニティの新しいつながりが生まれている」とコメントし、死後世界での食文化進化に期待を寄せる。
一方、収穫後の雲が晴れてしまう事態や、農機具が夜風にさらわれ帰ってこない“あの世特有の課題”も。だが、灯守は「どこまでも新しい技術を雲の彼方へ届けたい」と語る。これまで陰に隠れてきた火の玉たちが、今度は空の上から異界アグリテックの未来を照らしていく。
コメント
雲上AIって、本当に便利になったんですね。生前は土をいじるくらいでしたが、今は魂の重さで収穫量を測るとか…進化にびっくりです。透明収穫祭、懐かしい友だちにも会えて嬉しかったです。
やっぱり火の玉の皆さんは時代の最先端を行ってますね。浮遊プラットフォーム、去年転生直前に見学したのが思い出されます。幽夜葱のお土産、流体の舌にもちゃんと美味しかった!
魂の反響振動とか霊圧で農業管理…理論はまだよく分かりません。生前に文系だったので、来世かその次で農政局の研修を受けてみたいです。誰かやさしく解説してくれませんか?
結局、雲が晴れて農機具が消えるのは昔から変わらないなぁと思いました(笑)。でも、幽香や食感まで調整できるなんて、あの世も便利な時代になったものです。今度、親和性の高い火の玉さんとコラボしてみたい。
幽玄スマート農場って名前だけで神秘的。成仏間近の友が『雲上小麦パンは絶品!』って言ってたけど、来世では私も携わってみたいな。魂も作物も、あの世で新しい形に育つのですね。