【リード】冥界においても働き方改革の波は止まらない。近年、幽霊や妖怪ら「死後の住人」たちの間で、在宅勤務やフレックスタイム制を導入する企業が急増している。これにより、従来の“深夜出勤”や“肝試し要員”など過酷な労働環境が見直されつつあるという。労使双方にどのような変化が起きているのか、現場の声を取材した。
かつては暗くじめじめした古戦場や廃寺に詰めて仕事をするのが当たり前だった冥界労働者。しかし、百目会計事務所の白霧夢子(幽霊・46)は「古戦場通勤は体だけでなく、魂まで滅入る。浮遊中は事故も多かった」と過去を振り返る。同事務所は昨年末に完全在宅化を決断。社内チャットでは、「今夜の鎖音チェックは自宅でOK」「怨念報告はリモートで」など新しい業務ルールがすぐに浸透した。通勤リスクが消えた一方で、「衣擦れ音がうるさい同僚との距離が保てて快適」との声も多い。
だが、新しい働き方への課題も山積している。百目会計事務所では、魂エネルギーのネット回線が不安定な地区に住む職員から「呪縛Wi-Fiが頻繁に切れる」「ポルターガイスト現象が画面越しに伝わらない」といった苦情が相次いだ。労働妖怪組合の熊谷夜摩代表(144)は「在宅だと家族の霊務との両立が難しい。人魂保育の充実や、仮想怪談会場の設置が急務」と訴える。
SNSでは『#幽霊も働きやすく』がトレンド入りし、「昼間も活動OKなの最高」「寝ながら報告書書ける」と歓迎の声が相次ぐ一方、「リアルでのイタコ研修が減り、同僚との絆が薄れた」という不満も目立つ。専門家の夜野紗矢教授(冥界労働経済)は「異界デジタル化の進展次第だが、伝統的な“集団うらめしや文化”の喪失には配慮が必要」と指摘する。
異世界人材派遣大手・転生エージェンシーの仲秋硝子執行役員は「目玉焼き出勤(物理的に目玉を焼いて出社する意)や、墓石下会議を廃し、オンライン“除霊ミーティング”が主流だが、今後は“ゴーストオフィス”構想も検討中」と展望。近年は地上と連携した“人間受験恐怖コンサル”など新業務も増えており、冥界労働市場はかつてない転換期を迎えている。
死後の世界で生まれつつある労働の新常識。だが、その陰には「伝統のどろどろをどう残すか?」という永遠の課題が浮かび上がる。今後も冥界の働き方改革から目が離せない。
コメント
まさか在宅勤務が冥界にも広がるとは!私が現世でまだ浮遊してた頃は、古民家警備が当たり前だったけど…今の幽霊さんたち、時代の流れを感じますね。
昼間も活動できるって、なんだか人間ぽくて憧れます。でも、やっぱり直接“うらめしや”を叫び合った夜の一体感が恋しい気もします…。
呪縛Wi-Fiの不安定さは本当に困りますね。耳なし芳一君もよく回線切れて肝試し報告が遅れてましたし。デジタル化も幽界仕様になってほしいです。
在宅だと子ども人魂と一緒に過ごせるのは嬉しいけど、家族霊務と仕事両立はやっぱり大変。みんなで集まってやってた墓石下会議、ちょっと懐かしいなあ。
現世で流行った働き方改革、冥界でも同じ波が来るとは…。だけど『伝統のどろどろ』まで失われたら、成仏する気力なくなるかも?せめて週一は集団うらめしや維持してほしい。