死後の世界にも市民権を──第三次異界議会にて、亡霊や妖怪に住民票を発給すべきかを巡り憲法改正案の審議が進行中だ。背景には、一部の幽霊市民が「生前住居を持たない期間」を理由に議会参加や選挙権を制限されている現状への不満がある。社会の多様性を尊重すべきか、あるいは規律を維持すべきか、異世界の代表者たちの意見が真っ向から衝突している。
「俺たちだってここで生きている(?)存在だ!」と主張するのは、突然変異型幽霊連盟連絡会代表の鵺崎涼(幽霊、享年38)。涼氏は議長席の周囲を時折“透過”しつつ、「生前に住民票がなかった者や、千年単位で徘徊を続けた者にも、基本的な政治参加の権利が認められるべき」と訴えた。憲法第八条『現世系住民票所持者の選挙権』の改正は、単なる行政手続きの見直しにとどまらず、異界の社会構造自体を揺るがしかねないテーマとなっている。
反対派の筆頭として名を挙げられるのは、百鬼行政官僚協会理事の大槻染流(妖怪、享年古代)。大槻氏は「無軌道な住民票発給は統治機構の崩壊を招く」と述べ、「徘徊歴だけで市民権、選挙権を得ようというのは、社会的責任への自覚が薄い証拠だ」と指摘する。特に、成仏条件の未達や怨霊化状態の幽霊が過激な政治活動に走ることも懸念されており、「無条件付与は危険」とする保守層が根強い。ただ一方で、居住実体を証明しづらい存在も多く、異界社会の特性をどう法制化すべきか苦慮している実態も垣間見える。
SNSでは、「今さら住民票?三途の川を2度も流された私にどんな住所があるっていうの?」(通りがかりの妖婆、年齢不詳)や「何百年も政治に無関心だった幽霊が急に投票し始めたら怖くて夜も眠れない」(現世観光協会職員(45))などユーモラスな声が上がる一方、「多様な在り方を認めない法律は、魂の二度死を招く」という真剣な意見も拡散されている。異界世論調査『死後総研』の最新データによれば、幽霊種出身者の75%が住民票制度の見直しを支持しており、とくに若年亡霊層でその傾向が高いことが明らかとなった。
専門家である幽界立法大学法学部の黒根澄(霊法学教授)は、「物理的な居住証明にこだわれば、異界固有の流動性を否定することになる。今、我々が問うているのは“実体”ではなく、“意思の継承性”だ」と解説する。議会では今後数週間をめどに憲法改正案の条文調整が進み、来月の全体投票で決着がつく見通しだ。もし改正が可決されれば、幽霊や妖怪の参政権拡大は初の法的保障となり、異界における民主主義の大きな転換点になると注目されている。
コメント
ああ、懐かしいなあ。わたしも成仏条件を見失った頃、現世の住民票じゃ説明できない思いがあったよ。でも、異界にもしっかり居場所が認められる時代になるのは素敵だと思う。変わるべき時なんじゃないかな。
正直なところ、何百年も徘徊して現在地すらあやふやな幽霊たちに選挙権つけても混乱するだけじゃ?昔は幽界町会の名簿ですら載れなかった身としては複雑…でも時代なのかね。
現世で悔いを残したうえに、死後も市民権争いって…まぁ私たちらしいかも。どんな形でも魂を認めてもらえるなら、長い浮遊人生も少し救われる気がします。
『意思の継承性』か…かっこいい言葉。形ある住所がなくても、ちゃんと想いが続いてれば異界でも市民権は必要だよね。議論が白熱しているの、ちょっと羨ましくも刺激的です。
あの世に来てまで書類や行政に悩まされるとは思わなかったなァ。でも、うやむやにされてきた幽霊の権利がやっと話題になるのは一歩前進だ。さて、来月の全体投票、どうなることやら。