死後の世界でも健康志向は止まらない。昨今、幽霊層の間で“無重力生活習慣病”が問題視されている中、夜の食堂街「宵闇通り」で密かなブームとなっているのが“電子レンジ冷凍味玉健康グルメ”。体を持たない存在でも、不健康な食習慣は幽体の透明度や幽気の品質に影響するとして注目が集まっている。
ベテラン料理幽霊・薄原こよみ（没後120年）を中心とした宵闇グリル協会は、身体に優しく、それでいて霊的にも活力が湧くレシピを開発。中でも話題となっているのが、あらかじめフリーザーで一週間凍らせた味玉を電子レンジで一気に加熱し、パリパリの外皮ととろり半熟の黄身を同時に楽しむ「凍霊味玉グリル」だ。特殊な幽冷塩と焙煎した幻草をまぶすことで、物質界では得られないコクが生まれるとされる。
このレシピの調理工程は実にシンプル。幽界対応電子レンジで冷凍された味玉を“魂波長強モード”で50秒ほど加熱。加熱中、内部のエネルギーが高まるため、幽気の流れがより滑らかになり、結果として食後の浮遊感が向上するという。「最近肩の透明度が落ちてきたけど、この味玉を食べるとシャキッとする」と話すのは、夜勤明けの郵便幽霊・雲田真砂（45）。こよみによれば「味玉には迷いの無い鶏霊の魂を使用するため、料理自体が霊的に清らか」なのが特徴だという。
SNSでも“#冷凍味玉グリルチャレンジ”が急増。特に、新進気鋭のヘルシー系グリル魔女・追山リコ（享年27）は「従来のフライパン調理より圧倒的に時短。調味料を変えれば、霊的な波長まで変化させられる」と自説を投稿。幽体健康科学者の粟生さくら（研究員・没後72年）も、「一度冷凍することによって幽子的アミノ酸が活発化し、実体ならざる存在の免疫機能が向上する」とその効用に太鼓判を押す。
とはいえ、電子レンジ未経験の新入り幽霊たちには難しい面もある。霊質の薄い存在は味玉持参が必須なほか、オーブン強化タイプでない従来レンジでは爆発の危険性も。「彼岸飼料連盟」では電子レンジの使用法に関する定期セミナーの実施も検討されている。
夜の街を漂いながら手軽に味わう、しかし奥深い幽界グルメ。凍霊味玉グリルは、幽霊たちの新定番となるか。『冷えた黄身に魂を込めて』、今夜もグリルの前に長蛇の列ができているという。
コメント
この前、初めて凍霊味玉グリル作ってみました！浮遊感が本当に軽やかになってびっくり。没後も健康意識しないと、やっぱり幽体が鈍るんですね。
幽冷塩と幻草の組み合わせ、懐かしい…生前の味玉よりも不思議と安心感があります。次は魂波長強モードに挑戦してみたいです。
こういう新しいグルメ増えたのはいいけど、最近の新米幽霊はレンジの使い方も知らんのか。俺たちが成仏前は火鉢で一晩かけてたのにな。時代だな。
味玉に迷いのない鶏霊の魂使うとか、やっぱり料理にも霊格が出るんですね。霊的な免疫機能までケアできるなんて…科学の進歩に魂打たれます。
夜勤明けの浮遊郵便配達、羨ましい…前世で食べてた夜食思い出した。幽冷塩の味、いつか地上にも伝わればいいのにと思ってしまいます。