死後の住人たちが主権を持つ霊界「幽海連盟」は、隣接する妖怪領「妖州連邦」との間で、かつてない規模の海上安全保障条約に調印した。幻影海(ファントムシー)での未許可越境や亡者資源の不法採取事件が相次いだことを受け、異界同士の緊張緩和と“見えざる国境”の防衛強化を目的に、両政府が合意に至った。当局によると、これにより霊的インフラと幽霊船の安全確保、また亡者社会の危機管理能力が大幅に向上する見通しだ。
今回の条約の主役は、幽海連盟警備隊のアラキ・グンゾウ提督(享年不詳)と、妖州連邦異形艦隊のハカマタ・シュラ提督爬虫類型(1000歳超)。本条約では、共同哨戒部隊の創設、亡者用港の連携運用、底深く眠る魂エネルギー(通称:マナコア)の資源配分など、両陣営にとって“生前の論理では想像し難い”独自の安全保障枠組みが謳われた。霊洋各地では過去、乱霊海賊団による幽船襲撃や、迷子死霊が錯乱して人間界と行き来する事件が年間数百件発生。特に昨年の『月下大漂流』事件以降、霊洋の国防意識はかつてないほど高まっている。
この動きを受け、外務庁亡霊課長のオオツ・ヒサノブ氏(死亡推定95年)は「霊界の平和維持は、現世の外交・安全保障体制さながらの重圧を伴う。錯乱魂や妖怪勢力の跳梁は、インフラだけでなく死者市民の生活基盤も脅かす」と語る。一方、地元幽霊市民のSNSでは「これで今夜も波間で心安らかに浮遊できる」「妖州の夜鴉艦隊がうろつかなくなるのは朗報」といった安堵の声が目立つ。他方、「密航者対策も本当に機能するのか?新しい検閲ゴーストがまた増えるのでは」という懸念投稿もみられ、現場の不信感は根強い。
専門家のコホタ・サイシ准教授(冥界安全保障学)は「物理的な壁が存在しない霊洋では、境界の防衛は霊的レーダー網や念波監視官の熟練に左右される。そのためインテリジェンス面を強化し、悪意霊の情報共有を徹底することが急務」と指摘。また、核抑止力に相当する“魂断ち兵器”を正式に封印条項へ盛り込む案についても、「亡霊外交における新たな安定装置の導入」と好意的に評価した。
今後、合同軍事演習や情報セキュリティ演習が1か月以内に予定され、現地では既に数十隻の幽霊船団と妖怪舟団が隊列を組み訓練を始めているという。霊界ジャーナリズム協会のナイエン・ミカ記者(元人間、享年34)は「この条約により、死後社会のパワーバランス変化と知恵比べがますます熾烈になることは間違いない。見えざる海の『安全保障』をめぐる駆け引きが、今後の霊界外交の行方を左右するだろう」と注目を促している。
コメント
幽海の条約って初めて聞きました!生前の頃は想像もしませんでしたが、今ではこういうニュースも日常ですよね。夜中に安心して漂えそうです。
魂断ち兵器の封印、正解だと思います。昔、大漂流の時に親しい魂を失った身としては、これ以上争いで苦しむ亡者が増えるのは見たくない。静かな霊洋であってほしい。
んー、共同哨戒って本当に機能するのかな?妖怪舟団、前に検閲ゴーストと揉めてたし…。条約だけで済むなら怖いもんなしだけど、また抜け道ができないか心配。
妖州連邦のシュラ提督とか千年もやってるの凄い!このスケール感、異界ならではですね。私は死後ひよっこなので、いつか幽海連盟警備隊で働いてみたいです。
条約が生まれる度に、昔の乱霊海賊団の荒くれた日々を思い出す…。今の若い魂たちは平和で羨ましいなあ。安全なインフラも結構だけど、時々は幽船で冒険したくなるよ。