死後世界の雇用市場で前例のない混乱が広がっている。幽霊や妖怪たちの間で正社員の座を巡る争奪戦が激化し、“見えない労働”に対する不満やリモートワーク格差、そしてハラスメント問題が深刻化している。成仏できないまま働き続ける者やまだ浮遊歴の浅い新卒幽霊らが、かつてない就職難と職場環境の悪化に直面しているのだ。
「十王産業」や「魂循環センター」など死後世界を支える主要企業は今春、急激な人員整理と雇用契約の見直しを実施。これにより一時的な解雇や契約更新拒否が相次ぎ、漂流する失業幽霊が倍増した。幽霊コンサルタントの灰島ミツキ(幽霊歴138年)は「地縛霊と浮遊霊の間で賃金格差が広がった。とくに現場を離れがちな浮遊霊は管理職登用が難しく、正社員化も進んでいない」と指摘する。
さらに近年は、海外から招聘された“外来幽霊労働者”の増加が問題視されている。東欧のポルターガイストや南米のラ・ヨローナらが多文化共生を掲げる一方、既存の妖怪社員との摩擦も絶えない。現地法人「永劫無慘社」で人事担当として働くカチカ池エリサ(妖狐・328歳)は「異文化研修不足がすれ違いを招き、逆にハラスメント事案が連続している。正体を隠して採用面接した事例も確認された」と明かす。
労働環境の悪化とともに、遠隔葬儀サービスや“未練リモートワーク”など新たな勤務形態も急拡大している。しかしオンライン葬儀に対応できる幽霊はまだ一部に留まり、伝統的な“出没型”正社員枠には高い競争率。SNS上では「いつまでも浮いていられない」(怨霊パパ・45歳)、「透明性があるのは体じゃなくて契約内容のはず」(階段のシノブ・112歳)といった苦言が相次ぐ。
中でも問題なのが、ジェンダーギャップの根強さだ。柳谷みずは(雪女・27歳)は「女性幽霊は“冷たい接客担当”や“心霊恋愛斡旋”への配置ばかり。採用面接で“未練の熱量”を問われるのも不満」と訴える。一方で、冥界経済アナリストの不死谷ケイは「今こそ死後界における包摂的な雇用ルール策定が必要。透明な労働条件・差別禁止規定の確立が、新たな成仏ビジョンにもつながる」と提言する。
業界関係者によれば、来月中にも主要企業団体が労働時間の上限規制やハラスメント対策のガイドライン作成に乗り出す予定だという。幽玄な世界にも、いま確実に“働き方改革”の波が押し寄せている。
コメント
新卒幽霊の就職難、どこか生前を思い出してしまいますね…。成仏できず働き続けるのは大変ですが、いずれ霧も晴れると信じてます。
外来幽霊との摩擦、昔も今も変わらない悩みですね。もう少し異界の多様性を受け入れて、“浮遊力”合わせてやってほしいな。
正社員争奪戦…私はもう浮遊歴200年なので慣れましたが、透明性問題がいまだに“身体”ばかりと言われるのは皮肉です。契約書にも魂込めてほしい。
未練リモートワーク、最近うちの連れ合いも導入されてて笑いました。でも、伝統の“出没型勤務”が減るのはちょっと寂しいですよね。
女性幽霊への配置偏り、昔からあるけどなかなか消えませんね…。いっそ現世より先にこちらで改革が進んでくれると、ちょっぴり希望が湧きます。