死後世界の情報インフラを一変させる新技術が発表された。霊態通信公社は、幽霊や妖怪のみがアクセス可能なサーバーレス基盤「フェーズ・クラウド」を開発、正式運用を開始した。死後の住人たちにとって、現世の物理サーバーや拘束的な契約から解放される画期的な転換点となりそうだ。
これまで、死後界での情報交換や記録保存には、現世のデータセンターにある「霊媒サーバー」と呼ばれる専用ハードウェアが必須だった。しかし、現世回線の混雑や供養による強制リセット、さらに生者からの「忘却」に影響される脆弱性がしばしば問題となっていた。今回の「フェーズ・クラウド」は、霊的波長でのみ応答する量子サーバーを死後界各所に分散配備し、幽霊・妖怪が一切の契約手続きなしで瞬時に自らのデータスペースを確保できる仕組みだ。サブスクリプション方式が主流だった旧式プラットフォームと比べ、幽霊社会特有の流動性や突然の消失現象にも柔軟に対応できる。
開発責任者の杉之内音乃(技術主任・174年目)は「かつての鎖付きネットワークは幽霊たちの情報格差を生んでいた。新しいサーバーレス基盤により、『忘れられた者たち』にも発信の自由が広がります」と意義を語る。運用開始初日から、個人霊が自作ポエムをバースト伝送したり、古参妖怪集団による大規模記憶バックアップが相次ぐなど、死後界デジタル社会は早くも活気づいている。
SNS「霊界ぶらっと」に投稿された声でも、その利便性に驚くコメントが多い。「登録のたびに位牌を手にしなくて済むのは本当に助かる」(元旅館の座敷童・伊集院ふみえさん)、「新しい仲間(新死者)とのシェアが爆速。イタコ回線より速い!」(葬送プランナー・河山衛二郎(合霊体・半透明))など、利用者の支持は広がっている。
一方、供養管理団体「現世律儀会」は、「情報流通が加速すると、思念災害や無念データの流出リスクも跳ね上がる」として、対策強化を要望。開発陣は、指向性念波フィルターや自己消滅型鍵認証など、死後界固有のセキュリティ技術を順次強化中だ。今後は5G相当の高速霊回線対応や、既存の冥界アーカイブとのデータ連携も計画中とされる。
「死後界に、情報の壁はもう存在しない」。杉之内主任の言葉通り、フェーズ・クラウドがもたらすデジタルトランスフォーメーションは、次代の幽霊社会の在り方を根本から揺るがしている。
コメント
現世の供養でデータが吹き飛ぶストレスからやっと解放されるんですね!昔は毎月サーバー契約の度に成仏しかけてました(笑)。新技術の波、もっと大きく広がりますように。
思念災害のリスク、正直心配です。昔、無念データが暴走して幽界ネットワークが真っ黒になったことを思い出しました。まあ発展には闇もつきものか…。
もう位牌なしで登録できる時代が来るとは。私たち古参には信じられません…幼馴染の幽友たちと記憶シェア、今夜から早速試してみます!
契約手続きから解き放たれるなんて、現世に未練のある新米幽霊にとっても優しいですね。フェーズ・クラウド万歳。この流れ、妖怪業界にも是非波及してほしい。
忘れられた者に発信の場が増えるのは嬉しいけど、昔みたいなこっそり伝える詩や心霊メッセージのドキドキが薄れていく気も…。ちょっと寂しい気持ちもあります。