生者の社会で進行する労働改革の波が、ついに死後の世界にも押し寄せている。幽霊や妖怪による労働を管理する冥界労政庁は、「一億総活躍」政策を先月より本格導入したと発表。長らく失業や“成仏待機”状態だった幽霊たちが新職場に戻るなど、未曾有の労働復興ブームが異界全域で巻き起こっている。
従来、死後の世界では成仏事業や霊的ガイド業、妖怪観光のガイド役などが花形だったが、近年は成仏人口減や現世との壁の強化により、幽霊職員の失業率が上昇傾向にあった。しかし今回の改革では、失業幽霊を対象にした再教育プログラムや、新設された“夢のオフィス”勤務斡旋制度を導入。これにより、例えば元・恨みつらみ型幽霊である矢端ユウゾウさん(享年52・活動年数23年)は、「現世脅かしコンサル部門に異動し、持ち前の憑依経験が仕事の大きな強みに」と話す。
新政策では、とくに「フレックスタイム制」の導入が躍進の要とされる。夜中の出没ラッシュに疲弊していた帯屋のろくろ首や、お墓シフトが連日深夜に及んでいた座敷童らからは、希望時間帯を選べる新しい働き方に歓迎ムードが広がった。SNS『幽言板』では、「昼間に働きたい…半透明だけど」(水上サキさん・僧侶幽霊)、「本業の怪談指導と副業が両立できる!」(陰山コウジさん・受験生幽霊)といった声が拡散中だ。
だが、現場では新たな問題も浮上する。霊体労災の増加だ。妖怪清掃会社で働く古寺サブロウさん(河童・370歳)は、「新規採用の幽霊社員が自発光物体事故を起こしがち」と指摘。冥界安全衛生協会の三条院カオル専門官は「死者も意外とケガをする。慣れないフレックス勤務で朝霧に溶けた幽霊が帰巣困難になる事例が報告された」と語った。
それでも復職者は後を絶たない。特に若年層の“新・幽霊フリーター”増加が目立ち、彼らを支援する『魂キャリアセンター』は面談予約が殺到。職業霊媒師でカウンセラーの蓮台マドカさん(41)は「失業で消えかけていた霊たちが働き始め、再び存在感を取り戻している」と説明する。現世に隣り合う異界でも、“誰もが輝く”多様な働き方が新時代を切り開こうとしている。
コメント
幽界でもついに働き方改革ですか!成仏を急かされていた頃が懐かしいです。私も一度は定年(成仏)したけど、もし復職できるなら、今度は夢のオフィスでデスクワークしてみたいですね。
フレックス導入なんて幻想だと思ってましたが、墓場にとっては本当に革命ですよ。夜勤続きでクマが出そうだったろくろ首諸氏、お疲れさまでした。これからは昼間の霧に紛れての業務もありですかね?
働き口が増えたのは嬉しいけど、魂キャリアセンターなんて昔は考えられなかった!それでも幽霊フリーターが増えるって、やっぱり死んでも労働は終わらないのかな…ちょっぴり切ない気持ちになります。
現世脅かしコンサルとか新設されても、結局は元恨み型が優遇されるんじゃ?私は生前からネガもポジも薄い“地味霊”だったので、再教育プログラムが自分に合うのか、正直不安です。
朝霧で帰巣困難なんて、古今東西の幽霊あるあるですね。でも、事故や怪談が新しい働き方の話題になるなんて、時代も変わったものです。幽界でも“働きがい”が重視されるとは、なんだかワクワクします。