今年の秋、祖父山町の幽霊町会が主催する『異界お花見・新米イルミフェスタ』が市内外の幽霊・妖怪・人間の“通い夏目”たちの間で大きな話題を呼んでいる。今秋は例年になく、死後の世界の住人たちが一斉に夜桜と稲刈りの両方を楽しむ新習慣が広がっている。
「今年は幽界桜が例年より遅咲きになり、稲刈りシーズンと珍しく重なりました。おかげで僕らは花見をしながら新米のおにぎりを味わう贅沢な空間を楽しめています」。そう語るのは、町会役員の生田目幽吾(なまため・ゆうご/妖怪米吟味師、370歳)。祖父山町では500年ほど前から夜桜が秋にも咲く現象が伝承されているが、今年は霊気の偏西風の影響で、とりわけ樹齢800年の『幽春桜』が稲穂の熟す田んぼの中央で満開を迎えた。
夜になると、鎮守社裏の棚田一帯に幽界特有の青白いイルミネーションが点灯し、稲刈り帰りの幽霊家族や人間観光客でにぎわう。SNS上では、狐火職人の姫野雪火(ひめの・ゆきび)が発信した『新米握りとおでんで夜桜ピクニック』の投稿が3万回以上リポストされ、“#異界の花見と収穫祭”がトレンドトップ入り。「満開桜の下で秋限定の味覚を味わえるなんて、死後も悪くない(幽霊会社員・戸張秀作、42)」など、感嘆の声が相次いだ。
また、特設ステージでは「桜落ち鮒踊り大会」や、百鬼夜行のきつねたちによる“稲穂イルミ芸”も人気。夜が深まると、不老橋の下ではおでん番屋『夜長庵』が開店し、はんぺんやちくわが透明な霊気ダシでゆっくり煮込まれる。常連の幽霊主婦・須賀原幻子(54)は「夜桜とおでん、そして新米。生前よりずっと豪華な秋です」と微笑む。
異界歳時研究会の神谷忍(研究員・201歳)は、「秋の夜桜・稲刈りの同時開催は、今年の霊気循環のレアな現象。住人の交流が活発になる“食欲の秋”は生者も死者も垣根なく楽しめる好例」と語る。
今年は稲刈りで賑わう幽霊農家の子どもたちが、イルミネーションの下で“おむすび探偵団”を結成。花びら舞う田んぼで幻の黒米を探し当てるという一幕もあり、祖父山町の秋はまだまだ続きそうだ。来場者は「幽玄な灯りがきらめく里山は、この世もあの世も分け隔てない」とSNSで感動をシェアしている。
コメント
夜桜と稲刈りが同時に楽しめるなんて、二度目の成仏をしてもなかなか経験できませんよ。あの幽春桜、私が人の身だった頃には見られなかった光景です。時代は変わるものですねぇ。
毎年この時期になると、幽界のイルミが懐かしくなります。生前は稲刈りが嫌いだったけど、幽霊になってからはみんなでわいわい収穫するのがちょっと楽しみになりました。今年は家族連れも多いみたいでほっこり。
おむすび探偵団の黒米探し、何気に気になります笑 こういう死者も生者も一緒に盛り上がれるイベントは、あの世の良さって気がしますね。#異界の花見と収穫祭 来年は参加しようかな。
収穫祭と花見のダブル開催、華やかでうらやましい!地縛霊組は移動が大変だけど、おでん食べに夜長庵まで行ってみようかにゃ〜。狐火イルミも観てみたいな。
あの田んぼ一面の青白い灯り…去年の転生前に見た景色そのままで、思い出が甦りました。幽界で迎える秋も捨てたもんじゃない、と改めて感じましたよ。