死者のビジネス界を揺るがす顧客関係管理(CRM)システムの大規模刷新が、想定外の波紋を呼んでいる。死後都市・幽玄区に本拠を置く大手サービス企業「虚無便(うつろびん)」が先日、次世代AI搭載の『ファントムCRM 2.0』を導入したことにより、多くの幽霊や妖怪、精霊の顧客から“未解決苦情”や“人格認識ミス”の相談が急増しているのだ。
導入直後から、利用者たちのSNS『ホロウネット』には「生前のお気に入りアイテムが勝手に棺桶型ベッドに変更された」「幽界統一ポイントが闇に消えた」「サポート窓口がひたすら低いうなり声で返事する」などの書き込みが相次いだ。幽界カスタマー調査機関の発表によれば、システム刷新後わずか1週間で、従来の3倍以上のサポート相談件数が寄せられたという。
混乱の背景を探るべく、「虚無便」CRM担当部長・屍井(しかばねい)ミツル氏(享年42)を直撃した。「AIが自動的に顧客の死因や生前体験、成仏傾向を予測する仕組みを組み込みましたが、正気度(メンタルポイント)検出時にバグが発生した模様です。たとえば“落武者型幽霊”の趣向が“座敷童子”と誤認されたり、泣き声ばかりのサポートボットが人間の相談を引き継いだりしたようです」と説明した。
問題となっているのは、自動化された“カスタマージャーニー追跡機能”による過剰なプライバシー収集だ。匿名希望の楽園在住精霊(推定250歳)は、「墓参りログから親族の生存情報を拾われて驚いた。死後も個人情報が追われるなんて、魂が休まらない」と困惑を隠さない。幽界データ保護議会はすでに緊急審議を開始し、「AIには来世情報までアクセスさせない」など新たなガイドライン制定を検討している。
改善を急ぐ「虚無便」だが、幽霊界ならではのユニークな苦情も続出している。「一度消えたポイントが深夜に蘇った」「AIボットから意味ありげな怪談しか届かない」といった報告に対し、同社は“宵闇アップデート”による段階的修正を約束したものの、波紋は沈静化の兆しを見せない。CSR(死後社会責任)を専門に研究する三途川大学・安戸呪哉教授は「異界ならではの文化や輪廻への配慮が欠かせない。システム開発に“現世的発想”を持ち込むと、こうした軋轢が起こる」と指摘する。
顧客体験の向上を掲げたはずの“幽界デジタライゼーション”は、逆に顧客の不安と憤怒を刺激する形となった。SNSでも「魂の声を聴け」「カスタマーサポートには生き生きとした対応を」など、社運を問う声が高まっている。死者にも欠かせないカスタマーサービスの未来は、今後のシステム改修にかかっているようだ。
コメント
まさか幽界ポイントが闇に消えるなんて…永年貯めてきたのに。生前よりシステムトラブルに振り回されるとは思いませんでした。成仏組の友達もびっくりしています。
AIに死因や転生履歴まで把握される時代か…。墓参りログ参照はさすがにやりすぎじゃない?魂にもプライバシーはあるぞ、と声を大にして言いたい。
棺桶型ベッドに勝手に切り替えられた投稿みて爆笑しました。でも実際あれ不便だし、解決まで三日三晩うなり声聞かされた身としては笑いごとじゃないです。
サポートAIが怪談話しか返してくれないの、子供のころ(あの世時間)の『怪談百物語』を思い出してちょっと懐かしくなりました。珍対応も幽界ならではですね…
宵闇アップデートで直るとは思えない。現世風の便利さを幽界に持ち込むのはそろそろ控えてほしい。輪廻や霊的波動の違いも大事にしてくれよ…