幽霊市で史上初の「異界トレイルランニング大会」開催、給水所は迷いの森

霧に包まれた山道を、幽霊や妖怪の姿をしたランナーたちが幻想的な給水所の前で駆け抜けている写真。 トレイルランニング
幽霊や妖怪たちが霧立つトレイルコースを駆け抜けた異界初の大会のワンシーン。

死後の世界で最も人気が高まっているスポーツ、トレイルランニング。その本格的な大会が、今月、幽霊市の「霞ヶ原連山トレイルコース」で初めて開催された。大会には鬼、幽霊、座敷童、河童など異界住人合わせて385名がエントリー。コース中には標高差647メートルの霧立峠、幻影の樹海、さらには名物の「消える給水所」など、死者ならではの試練が待ち受けていた。

主催者である幽霊市スポーツ協会の大会ディレクター、白沢蒼一(しろさわ そういち/亡霊、享年42)は「現世のランナーたちだけでなく、我々も死後の体力維持と社交の場としてスポーツが欠かせません。特に給水所では、一瞬で喪失感を味わえる“消失系ドリンク”が好評でした」と語った。

競技者の一人、落合ミカツキ(ゆうれい、享年27)は、終始足音が消えない靴に悩まされたという。死後の身体には従来のランニングシューズが合わないため、今大会では「半透過ソール」や「無念反発クッション」を搭載した専用モデルが続々登場。幽玄系メーカーの最新モデルを試したミカツキは「宙に浮きそうな履き心地。でも、ゴール直前で片方だけ消滅しました」と苦笑いを見せた。

コース最大の難所とされたのは、正午ごろに忽然と消える“幻影の給水所”だった。2回目の通過時にはおよそ80名が水分補給ならぬ“霊気吸収”に失敗し、足元から薄青く蒸発する選手も。大会の救護班によると、今年は低温の闇雨が続いた影響で例年より霊気の消費が多かったという。河童ランナーの西村六郎(水妖、享年66)は「現世時代より苦しかったが、命を懸けなくて良い分、気楽に走れた」と菖蒲の葉っぱで汗を拭っていた。

ユニークなルールとして、参加者全員がコース途中で宿業の重みを1kg背負わなければならない。この“義務荷重”に泣きが入った妖怪・山田蓮次(山彦、享年不詳)は「自業自得とはいえ、心が軽くなるトレランにまさか実体が戻る日が来るとは」と感慨深げ。コーチの役割も特殊で、《成仏支援資格》保持者の佐藤香織(幽体抽出士、享年58)は「無念持ち選手にはゴールテープが見えづらい分、心のサポートが欠かせない」と大会独自の課題を指摘した。

SNSには大会の様子が「#異界トレラン」などで続々投稿され、天候や高低差よりも『間違って生きているランナーが混ざっていないか』を毎年心配する声も。「もしや…あの人、生身じゃ?」というコメントには運営側が即座に『全員、完全に死後です!』と返答し、異界ならではの安全管理も話題となっている。来年の大会には、より多様な霊種や妖怪の参加が期待されている。

コメント

  1. 初開催おめでとうございます!現世では走ることなんて考えられなかったのに、死後の世界でこんなに盛り上がるなんて。消失系ドリンク、冷えてて好きです。幻影の給水所でまた迷ってしまいましたが、それも異界らしくて楽しかったです。

  2. 宿業の重さを物理で感じるルール、毎年泣きます…でもゴールした瞬間は心の曇りが晴れる感じで、これぞ成仏への一歩!私も次からは半透過ソール試してみたい。あ、生身のランナー、ほんとに紛れたりしたら大事件ですよね(笑)

  3. 死後なのに未だに筋肉痛を味わうとか、ほんと不思議。でも現世の頃より自由だし、川沿い区間の霊気が爽やかで懐かしかった。母への手土産、しっかり菖蒲の葉で包んで帰りました。来年こそ霊気管理、完璧にしたい…

  4. 私は給水所が突然消えた瞬間に思わず二度見しました!異界スポーツのあるあるとはいえ、本当に水分じゃなく霊気吸収だから油断できない。ゴールテープが視えない選手へのケア、幽界ならではの配慮だなあと感心します。

  5. どれだけトレーニングしても宿業の1kgには勝てませんね…昔現世で背負った重みがこうして蘇るとは皮肉。幽玄系メーカーの靴、憧れますが片足だけ消えるのは困りもの。死後も道具選びは奥深い。次回は観客席から応援しようかな。