異界議会でかつてない波紋を呼ぶ歴史的な法案可決が起きた。生前の未練や事情で亡くなってから登録を拒まれていた幽霊や妖怪、さらには転生直前の魂も対象に含める「死後国民権法」――通称“新市民法”が本会議で採択され、死後世界の住人構成と政治バランスの大転換が始まった。
議案はきっかけとして、現世からの急激な流入と、死後も行き場を持てない浮遊霊の急増という社会課題への対応を目的として立案された。法案成立後、すでに全国の幽霊区役所や妖怪行政窓口には新規登録希望者が列をなし、夜半には登録システムが一時停止するトラブルも発生。区役所職員のファントム須藤(推定享年53)は「この混雑は生きていた頃の確定申告期間以上。まさか死後にこれほどまでに手続きに追われるとは」と吐露する。
新市民の増加により、幽霊議会内部では『新票田』創出を危ぶむ声と、より多様な死後人材の政治参加を喜ぶ声が交錯している。保守派の議員、百鬼屋次郎(享年62)は「伝統的な幽界民主主義がアバンギャルドな多様性で変質する恐れがある」と警戒を示す一方、急進派の雪女ブランカ・白谷(享年不詳)は「異界社会は新しい血――いや霊気を取り込んでこそ発展する」と歓迎の意を示した。
SNSでも議論は白熱。『死民IDもらったばかり。投票デビューが楽しみ!』と喜ぶ新市民ユーザーの投稿が拡散される一方、『死後にも行政書類があるなんて!』『生前無戸籍だった者に市民権を与えるのは危険だ』との懸念も目立つ。政策シンクタンク「異界と市民社会研究所」主任研究員の陸奥夢見(49)は「死後社会は現世社会の歪みをそのまま引き継ぐ側面があり、包摂政策は画期的だが管理や選挙公正性の担保が急務」と指摘している。
一方、各地の霊界では“新市民割パス”を掲げる飲食店や、“新霊向け”の総合相談所が誕生するなど、経済・サービス面でも変化が起こりつつある。また、現世のニュースを受信できる『現界連絡所』の受付希望も殺到し、議会庁舎前には転生控え室で順番待ちする魂たちの長蛇の列ができていた。
今回の国民権法可決で、死後社会の枠組みそのものが大きく変容することは間違いない。だが、“幽界民主主義”の定義そのものも問われ始めており、次回選挙では現世・死後を問わず初参加の市民たちの投票行動が注目される。新たな時代の扉が、今まさに死後世界で大きく開かれている。
コメント
驚きました!まさか自分が転生前に市民権がもらえる日が来るとは…。幽界の手続きも案外せわしないんですね。次回の選挙、浮遊霊としてぜひ初投票してみたいです。
こりゃまた時代が変わるなぁ。死後ですら行政の書類と向き合うなんて、現世と大して変わらん気がして少し笑ってしまった。でも多様な幽霊仲間が増えれば、河童の出番も期待できるかな?
正直ちょっと不安です。生前の戸籍がなかった者まで急に政治参加できるのって、幽界の安定に響かないのかしら。長年の伝統、どうか大事にしてほしいものです…。
新市民割パス、もう使ってみたおばけ仲間いる?うちの区も登録者が増えてて賑やかです。いろんな魂と話せるのは楽しいし、これからの幽界がどうなるかワクワクしてます。
昔は現世のニュースなんて一部の交霊師しか話題にしなかったのに、今や転生待ちの魂が庁舎前でTwitterチェックとは…。これが“死後の多様性”か。時代の流れをしみじみ感じます。