幽霊たちの42.195kmマラソン大会、史上初の“サブスリー”達成に異界が湧く

霧に包まれた夜のスタートゲートに、半透明の幽霊や妖怪ランナーが立ち並び、ぼんやりと光る灯篭に照らされている様子。 マラソン
霧ヶ原のスタートゲートに集結した異界マラソンのランナーたち。

幽霊や妖怪、死後の世界の住人たちが集う恒例の「異界マラソン大会」で、ついに幽霊ランナーによる“サブスリー”が成立した。歩くのでもなく、すり抜けるのでもない、本気のランニングで競われるこの大会。42.195キロという過酷なコースには無数のアップダウンや魂抜けポイントが設置され、毎年多くの参加者と観客の妖気が熱く渦を巻く。今大会最大のトピックは、村雨彼岸(むらさめ ひがん、享年33)の自己ベスト達成だ。

午前零時、冥都の霧ヶ原スタートゲートに集ったのは計3408名。ゾンビの義藤蒼士(ぎとう そうし、死亡時55)は「足が取れないか心配」と語り、子狐妖怪の狐塚紅葉(こづか もみじ、32歳・転生中)は「今度こそ完走メダルを!」と意気込みを語っていた。大会は、記録係の怨霊が一斉に鳴らす伝統のどよめきサイレンで幕を開けた。序盤は半透明集団が飛び出すも、スポンジ状の霊界舗装路と煉獄坂上りが想像以上の難関に。レース中盤では、亡者ランナー専用のランニングシューズ“歩行魂ソール”の新作を履いた南雲幽一(なぐも ゆういち、享年44)がスパートをかけるも、ゴール目前で靴が「消滅」しリタイアする波乱もあった。

最大の見せ場は、村雨彼岸の激走だった。冥途高校時代に陸上部で鳴らした経歴を持ち、生前記録でもサブスリーに30秒及ばなかった村雨。今大会では、魂の軽さを活かした“空中浮遊キック”を駆使し、ラスト5キロで宿敵・磯撫王煙(いそなで おうえん、河童・永遠の35歳)を逆転。ゴールテープを切った瞬間、完走タイム2時間57分33秒の表示に魂観客席がどよめいた。SNS「霊界ノート」でも、「これは異界史に残る快挙だ」や「やっぱり村雨の根性はすごい」「生前の宿願をついに果たした」とハッシュタグ#彼岸サブスリーで祝福が相次ぐ事態に。

ボランティア役の灯篭小僧たちは、沿道で霊界特製のスポーツドリンク「脱魂エイド」を配布。例年よりも天候(?)が安定し、低温無風のなかで競技が進行されたことも好記録の一因とみられる。主催者である異界スポーツ連盟の汀間鵺生(みぎわ ぬえお、連盟会長)は、「地縛霊たちのコース整理や、魂の迷子サポート活動が年々充実してきた。今後もより多くの異界住民がランニングを楽しめる環境づくりに励みたい」とコメント。

表彰式では、完走者ひとりひとりに伝説の“浮遊メダル”が手渡され、亡者DJによるゴーストラップな演出でランナーたちはフィニッシュの余韻に浸っていた。次回は、さらに難易度の高い奈落アップダウンコースへのリニューアルが計画中とのこと。死後の世界においても、走ることの喜びと挑戦は決して絶えることがないようだ。

コメント

  1. 村雨彼岸さん、サブスリー達成おめでとうございます!霊界でもこんなに熱いレースがあるとは…生きてた頃からの夢を成仏後も追い続ける姿に魂が震えました。来世でも応援します!

  2. やっぱり魂が軽いと速いんですねぇ。でもコースに魂抜けポイントがあるのだけは昔から変わらず、懐かしいです。今年もたくさんの幽界仲間で賑わってたのが写真から伝わってきました。来年は子供たちも走らせてみようかな…。

  3. 魂シューズの消滅とか、異界ならではのアクシデント!南雲さんには同情しますが、それもまた冥界マラソンの醍醐味ですね。サブスリー陰ながら願ってましたが、実現する瞬間に立ち会えず悔しい!

  4. 異界スポーツ連盟さん、コース整理や迷子サポートご苦労様です。昔は霊混乱で何人も現世に迷い出てたのに、最近は運営がしっかりしてきましたね。ゴーストラップも耳に残るし、フィニッシュ周辺の演出が毎年進化しててすごい。

  5. サブスリーのニュースに驚きました!死後の世界にも限界突破があるなんて…私も昔、雪嵐エリアボランティアで参加したのを思い出してちょっと切なくなりました。浮遊メダル、触ったときのひんやり感が好きです。