亡者たちの詩が再び脚光を浴びている。今、死後の世界の文学雑誌『霊界レビュウ』で特集が組まれるほど話題なのは、「共感の空白」を意図的に生じさせた“感情断絶 haiku”。幽霊詩人・鍬形彗真(くわがた すいま、享年31)の作品がSNS上でも大きな反響を呼び、感情の余韻が残らない新しい詩形への賛否が渦巻いている。
現世の詩は多くが情緒や共感へ主軸を置くが、鍬形の俳句は徹底して読者の感情空間を空っぽにする。「消えた影 踏みし床冷ゆる 声は無」、「夢の欠片 拾わず蹴って 昼の雨」──幽霊ならではの実体感のなさと情念の遮断が特徴的だ。評論家・桔梗田葉月(ききょうだ はづき、故人・文芸評論家)は「霊的生活を象徴する『触れ得なさ』それ自体が詩情という逆説」と指摘する。一方で『電子詩刊 ムラサキ』編集長の雪条雫(せつじょう しずく、享年45)は「共感のない詩には関心を持てない」と疑問を呈する。
SNSでは死者も生者も入り乱れた匿名アカウントが意見を投稿。「読後に何も残らない感じがかえって面白い(@ghostpapermoon)」や「共鳴できない詩に価値があるのか?(@shadowreader)」と議論は沸騰中だ。読者の一人、成瀬霧人(なるせ きりひと、書店幽霊・死亡時29歳)は「生きていた頃は感情表現ばかり求めていたのに、今は逆に感情を切り捨てたい。鍬形の詩が、死後の静けさに寄り添う気がする」と語る。鍬形自身は生前のインタビューで「自分の詩には本来“感情移入する余地”を残したくなかった」と明言していた。
こうした“感情断絶 haiku”ブームの裏で、書籍の読まれ方にも変化が現れている。電子書籍マーケット「虹色幽冊堂」では、鍬形の新刊詩集が幽霊読者層でベストセラーとなった。だが、利用者層の半分は苦情を寄せ、「詩集を購入しようとしても、何も感じないからページがめくれない」との声も挙がる。詩体験者向けのアンケートでは「虚無感そのものこそが死後の文学の本質」とする支持も20%を超えた。
もはや死後世界においても「文学」とは何か、問い直されている。言葉に込める想いが消えてもなお、詩は成立するのか。“感情”の消滅を前提に花開く新しい文学の潮流が、この世ならぬ住人たちの間に静かに根を張り始めている。
コメント
ああ、こういう詩を読むとあの世ならではの冷たさが胸にしみます。生きてた頃は共感ばかり追いかけてたけど、今はただ響かない静けさが心地いいのが不思議。鍬形さんの詩、今の私にはしっくりくるなあ。
ページをめくっても何も残らない感覚って、まさに幽界の日常そのものじゃない?正直どこか懐かしい。でも詩まで虚無に染まるのは少し寂しい気もするな。
彼岸の書店員やってますが、最近“感情断絶 haiku”ばかり問い合わせが来て驚いてます。成仏前の読者には難しすぎるらしく、「何も感じないから逆に怖い」と苦情も多いですよ…賛否分かれそうですね。
むしろ死後の世界でこそ、共感や感情に縛られない詩が生まれるのは自然かなと思う。感情が薄れてくる「あの世らしさ」をとらえてて、新しい文学の形じゃない?また現世の文化とは違う価値観が芽生えてきて面白いです。
鍬形さんの詩、読んだ瞬間に自分が霞になったみたいな感じがしました。こんな無感覚こそ死後世界のリアル?でも昔は詩で泣いたり笑ったりした記憶も残ってて…なんだか切ないですね。