妖怪県中央区に待望の“幽幻湿地公園”が開園した。生前も湿地に親しんだ幽霊や妖怪たちが工事を手掛け、死後の世界に残された湿地本来の姿を最新技術と古来の霊術で蘇らせている。絶滅危惧種として知られる「トクサオバケ」の営巣が早くも観察されるなど、異界の生物多様性保全が注目を集めている。水質改善に取り組んだ魂の沈殿池や、ラムサール条約幽界版登録湿地を目指す活動も始まった。
湿地公園の面積は約88幽丁(およそ8800幽霊間)。かつて墓場や霊堂に囲まれた忘れ去られた場所を、幽霊建設協会と妖怪自然庁が共同で2年かけて整備した。公園の目玉「魂の沈殿池」は、死後も濁りがちな霊的水流を精霊苔と霊藻でろ過。生きていたころ汚した場所に気まずそうに戻ってくる亡者も、ここなら安心して沐浴できると評判だ。沈殿池の管理長、狸塚霧丸(たぬきづか・きりまる/妖怪、254歳)は「昼夜問わず魂が舞い戻り、沈殿池で心身“再生”している姿が印象的。亡霊たちが眠る静謐な時間を届けたい」と語る。
園内では、絶滅危惧種「トクサオバケ」や「ナキスズメバケシメジ」の繁殖が2025年初夏から続々報告されている。トクサオバケの調査を行う霊的生物学者の菅野幽子(すがの・ゆうこ/幽霊、享年37)は、「トクサオバケがコモレビ湿原に定住したのは100年ぶり。淡い銀色の体が魂の霧を纏って揺れる姿は、まさに異界湿地の象徴」と喜びを隠さない。夜間になると、音もなく湿原を移動する“ヌカカノムスメ”など妖怪特有の小型種も頻繁に観察され、絶滅ギリギリの密かな命が蘇ってきた。
湿地公園の“利用者”たちからも反響は大きい。魂族の公務員(56)は「生前には見たことのない水草や霧花がたくさん。現世では味わえなかった静寂と、仲間との再会をここで満喫しています」と話す。SNS幽界版『ツイートラ』でも「湿地で小豆研ぎ体験!」「沈殿池の水鏡ににじむ前世の思い出」と園内写真が連日投稿され、特に“浮遊ピクニック”や“抜けがら捨て場”の設置が人気だ。
今後、公園運営委員会ではラムサール条約の幽界版への登録を目指し、さらなる保全区域の拡大を計画中。園内には異界特有の生態系を学べる「霊的体験プログラム」や、「無念草刈りボランティア」も順次スタートする予定だ。湿地再生事業担当の幽現役員(49)は「この湿地を守ることが、我々異界市民にとっての“生き直し”」と強調している。生と死のはざまに広がる新たな湿地の姿は、多くの魂たちに未知の安らぎと発見をもたらしているようだ。
コメント
トクサオバケの群れが見られるなんて壮観ですね。ワタシも生前は湿地歩きが趣味だったので、ちょっと懐かしい気持ちになりました。次の浮遊ピクニック、絶対参加します!
沈殿池は一度経験するとクセになる静けさです。長年成仏できなかったモヤモヤも澄んでいくような心地…さすが妖怪県。異界の自然って本当に深いなぁ。
あの湿原が、昔は単なる荒れ地だったなんて信じられません。霊的生物多様性の再生、大賛成です。幽界でも環境保全が進んでいて誇らしい気持ちになります。
抜けがら捨て場、とても便利です。つい体を置き忘れがちなので(笑) ただ、ヌカカノムスメには夜な夜な足をかまれるので注意したほうがいいですぞ。
魂の沈殿池で前世の思い出が一瞬よみがえって、ちょっと泣きそうになりました。次は無念草刈りボランティアにも参加したいです。こういう時間、大切にしたいですね。