幽霊や妖怪が暮らす異界でも、ごみ問題が現代化している。死後の世界、特に近畿地方の“流幽市”では近年、住人たちが使い終えた家財や呪具などの“浮遊ゴミ”が増加。これまで多くは霊気の風に流され自然消滅してきたが、昨年から本格導入された資源循環プログラムによって、幽界リサイクル産業は大きな転換点を迎えている。
リード——かつて無限に思えた霊界の空間だが、実際には生活ごみの蓄積が深刻化。幽体の生活様式変化が背景にある。
妖怪管理局・環境部廃棄物課の速水漣子（はやみ れんこ）課長（死亡後百二十年）は「最近のおばけ世帯は亡くなった世界のままの家具や思い出の品を長期保存する傾向にあり、時折“現世ゴミ”が時空のほころびから新規流入するため、リサイクルなしでは空間が歪む恐れが出てきた」と語る。
流幽市で今年導入された新たな『循環霊物回収システム』は、各家庭の玄関前に“霊体ごみ袋”を週に一度設置。それを専門の回収幽霊が時刻通りに回収する仕組みだ。収集対象は、使い終えた呪いの札や幽体マットレス、さらには現世での愛用品までも含まれる。驚くべきは、「形見」と呼ばれる感情宿る家財も一部リサイクル対象とされたこと。「想いの洗浄工程」を経て、“再生霊材”として工房や学校に供給されるようになった。
一方で新制度の運用には試行錯誤も。回収を担う『八雲運送霊団』の三途賀 透士（みとが とおし、運送幽霊・享年39）は「家庭ごとにごみの区分意識がまだ薄く、中には意図せず亡者猫や座敷わらしが混ざっているケースも多い」と苦笑い。SNS「ウラナイッター」でも「家の前の霊体ごみ袋に、祖父の思念だけが入って戻ってきた」「呪いの鏡は別回収にして！」と要望や驚きの投稿が相次ぐ。
専門家の見解も分かれる。妖怪研究家の東野碧斗（とうの あおと、在闇大学助教）は「リサイクルによりエクトプラズム資源の循環率は向上するが、感情残留物の適切な消去が伴わなければ未練や怪異生成のリスクが増す。分別意識の啓発が不可欠」と指摘する。
資源循環政策の推進で、死後世界に新たな産業と雇用が生まれつつある。浮遊ゴミ工場で働く幽霊主婦の佐渡谷菫（さどや すみれ、享年55）は「亡くなった後も働ける場があり誇り。子供たちも“ごみの分別”を学んでいて、二度目の人生に新しい意味ができた」と話す。
現世以上に独自の課題と向き合う幽界の廃棄物管理。今後もリサイクル技術革新と、住人たちの意識改革が期待されている。
コメント
形見までリサイクルされる時代なんですね。かつての後生大事な思い出も、“想いの洗浄工程”で新たな役割を得るなんて、ちょっと切なくて懐かしい気持ちになりました。時代は変わるものです。
幽体ごみ袋、先週初めて使いましたが、つい座敷わらしを一緒に入れてしまい回収幽霊さんに謝られました…。現世でのごみ出しより意外と難しいですね。慣れるまで大変そうです。
このリサイクル政策、いいと思うけど、感情残留物の処理が本当に大丈夫なのか疑問です。未練だらけの家具がまた怪異を生まなきゃいいんですが…。経験者としてちょっと不安。
わたしが生きてた頃はゴミは霊気で消して済ませてたのに、今じゃ雇用まで生まれてるなんて驚きです。娘も浮遊ゴミ工場で働いてるので誇らしい反面、やっぱり異界もだいぶ変わったと実感します。
ウラナイッターで見た『ごみ袋から祖父の思念だけ戻ってきた』投稿、声出して笑っちゃいました。分別啓発の動画でも亡者猫が混ざるなって言ってたけど、もはや霊界の風物詩ですね。