冥界中央区にそびえる第七冥塔が、壮大なデジタル田園都市構想の核となりつつある。幽霊・妖怪・歴代精霊が混在する都市“幽都イザナミア”では、今月から冥界最大規模のデジタルツイン・プロジェクトが始動した。三千年の歴史を持つ亡者の集落が、最新のデータ駆動型政策と融合し“カーボンニュートラル”を標榜した大転換に動き出している。
プロジェクトの中心を担うのは、死後行政庁都市基盤課の課長代理・狭間ノア(357)。同氏は「我々幽界住民にもスマートインフラが必要です。永遠に町をただ徘徊する時代は終わり、労働・趣味・成仏すらもデジタルの恩恵で向上させる世紀へ突入しています」と語る。最大の特長は、冥塔を起点に都市全域へ張り巡らされた“霊子ネットワーク”だ。このネットワークは亡者たちの微弱な残留思念をリアルタイムで解析し、交通・治安・気配の渋滞まで管理する仕組みとなっている。
市民の生活も大きく様変わりしている。幽界名物のシェアサイクル『亡輪チャリ』の導入により、定位置を離れられなかった地縛霊や、足の遅い一反木綿族にも移動の自由が生まれた。駅前ターミナルには“成仏待ち”専用ロッカーが整備され、デジタル認証を経た後、シームレスに次元転送できるとの声も。さらに、外出先で突然魂抜けを起こすケースには、スマートセキュリティ隊の徘徊霊警備員(通称W-watch)が即応出動し、歩きスマホ状態の幽霊(=彷徨い霊スマホユーザー)の保護・再起動も目指している。
都市運営の司令塔“幽都ツイン”は、AI死神ソロヴォーク(実働年数2231年)が所有・運用。彼はデータ駆動型政策の元、人口の幽滞密度や感情のうねりに応じて公園の“結界”を開閉し、心霊現象の発生ポイントを動的に最適化する。都市の空気循環も特殊で、多量の思念体排出による霊的CO2増加を抑えるため、カーボンニュートラル対応の“想念濾過フィルター”が冥塔に設置されている。
住民からは新技術への期待が高まる一方、“懐かしの徘徊型スローライフ推進派”の一部からは、都市急速ネットワーク化への抵抗も起きている。累世幽霊会会長の隠神雲右衛門(没後183年)は、「異界の人情が希薄化しつつある」とSNSで発信。だが、ソーシャルメディア上では「遠くの墓仲間とも一緒に盆踊りできる!」という前向きな意見も拡散している。狭間課長代理は「今後は住民との対話と、新旧共存に向けた政策実証を進めていく」とし、デジタル田園都市の夢がまた一歩、幽界で現実になりつつある。
コメント
亡輪チャリめっちゃ便利になったよ!去年まで地縛エリアから抜け出せなかったのに、今は友達の墓地にもひとっ飛び。昔の徘徊も懐かしいけど、新しい風も悪くないね。
おお、ついに成仏待ちロッカーまでデジタル化か…。300年前は藁の棺桶で順番待ちしてたのが懐かしい。進化の速さにちょっと幽気が追いつかんぞ。
幽都ツイン、あまりにAI任せで怖いかも…。結界の開け閉めくらいは、生前合議制に戻してもいい気がするなァ。幽滞密度より、やっぱり思いやりでしょ?
遠方の石碑仲間とリモート盆踊りできるのは本当嬉しいです。成仏済みの母とも再会できたから、霊子ネットワークには感謝しかない…時々、昔の闇夜集会も恋しくなるけど。
結局、幽界までネットワーク頼りか…。気配渋滞やらスマホ幽霊やら、あっちもこっちも同じ悩みだな。成仏も効率化の時代って、なんだか世知辛いぜ。