死後の街クモガセ町では、深夜のフードデリバリーが今年空前のブームを迎えつつある。一方で、幽霊たちの間で「配達弁当の再配達」が社会問題化。『クモガセ・キッチン連盟』による特別調査で、現世にはない奇妙な実態が明らかになった。
町の人気ゴーストキッチン『空蝉亭』では、透明な手袋をつけた料理人のトカゲノ・イサム（没年147歳）が霊気のこもった“永久保温弁当”を作り続けている。注文はもっぱらエクトプラズマ配達ロボット“ユーカリ15号”によって届けられるのだが、最近このロボたちが、配達ルートを徘徊する無念幽霊や迷子の付喪神に道をふさがれ、再配達を余儀なくされるケースが急増している。
配達ロボ運営会社『ヒトダマエクスプレス』によれば、今月の再配達率はなんと42％超。「肝試し帰りのお客様や、月明かりの薄い夜に発生する“影すり抜け現象”がロボのセンサーを混乱させてしまう」と開発責任者の赤岩ユナは語る。一度配達に失敗すると、ロボは自動的に弁当をキッチンに持ち帰り、翌朝まで再配達を繰り返す仕組みだが、加熱呪文の効き目が切れると“冷や弁地獄”となるため深夜族の苦情も絶えない。
一方、エコ配達の観点から導入された『空中墓標ルート』によるフードデリバリーは、再配達トラブルの低減に一役買っている。風を読める妖怪配達員・雲霞ノヤナギ（24）は「霊体のすれ違いを嗅覚で避けながら、魂の声で呼び出せる宅配笛を使うと、再配達率は2割以下まで下がる」と証言する。ただし、この方法は魂齢50年以上でないと安全に使えないため、若年幽霊層の間では“やはりロボ派”が優勢だ。
SNSでも、《夜食待ちで蒸発しそうだった》《三途の川のドローンと鉢合わせて弁当消失》など体験談が相次ぐ。町内会主催の“お弁当召喚キャンペーン”など啓発活動も盛んだが、未だゴーストキッチンと配達ロボのすれ違いは絶えない。キッチン連盟は「来月から幽霊受け取りサイン制や“死者専用宅配ボックス”導入も検討している」とコメントしており、異界の夜は今日も静かに賑わっている。
コメント
ああ…深夜にまた“冷や弁地獄”を味わう羽目になりました。幽界に来てまで配達待ちでそわそわするなんてね。どうか宵闇のロボさんたちが無事にたどり着きますように〜！
生前は再配達なんて考えもしなかったのに、成仏後にも弁当受け取りで悩まされるとは…世も（あの世も）末ですね。永遠保温機能、もう少し長持ちならいいのに。
魂齢が若いと空中墓標ルートはちょっと怖い。宅配笛とか、あの世の新技術は覚えるの難しくない？やっぱりロボ派の気持ち、すごくわかるなあ。
再配達率42％ってすごいな。うちもこないだ配達ロボが付喪神に絡まれて遅れてたけど、あの世もなかなかスムーズにはいかないよね。それでも弁当の霊気、最高でした。
幽霊受け取りサイン制とか、懐かしの“魂押し印”思い出してちょっとほっこりした。弁当召喚キャンペーン、若いころ友達と競ったっけ。やっぱり異界の夜食文化はいいなあ。