現世では聞きなれた「サブスクリプションサービス」。だが、いまやこの仕組みが死後の世界でも主流となり、幽霊や妖怪、精霊たちの暮らしを大きく変えつつある。特に注目されるのが、地縛霊や冥界渡し舟会社で働く死者たちの間で急速に普及する「日用品定期便」と「霊界版電子書籍サービス」だ。その一方で、“あの世民”特有のサブスク問題も浮上している。
東幽市の集合住宅『無常タワーズ』で暮らす幽霊・皿垣外結弦(さらがいと・ゆづる/没後72年)は、週一回届く“夜露エッセンスふきん”や、毎月配達される“無限コーヒー微粒子”などのサブスクリプションが欠かせない。「生前よりずっと効率的に消耗品が手に入る」と語る結弦。しかし、その裏には幽界特有の不便も潜む。例えば、配達時に低霊体用のロッカーへ物資がすり抜けてしまい、半透明状態の配達員が三度も再配達になるケースが後を絶たないのだ。
一方、霊界最大手の電子書籍サービス『幽eリーダー』は10万点を超える怪談・供養書籍が読み放題。壇上寺(だんじょうじ)で読経のアルバイトをする妖狐・板垣紅蓮(いたがき・ぐれん/享年不詳)は「毎夜、陰陽最新号から地蔵コミックまで一気読みできるのが最高。でも契約解除時に“未成仏者の長文アンケート10項目”が現れて地獄的」とSNSで嘆く。
最近は幽界自動車組合による“逝車(いきしゃ)”のカーサブスクも人気だ。法要や心霊スポット巡りを気ままに楽しむ生前派の心理霊層に支持され、その中には「成仏街道プラン」や「供物運搬パッケージ」などオプションも豊富。ただし、一定期間霊気ポイントが足りないと契約解除となり、路上で車が煙と化すトラブルも報告されている。無念そうなオーナー霊がSNSで「また灰にされた」と嘆く投稿が増えている。
こうした拡大の裏で問題視されているのが、サブスク解約の難しさだ。生前の契約に引きずられたまま、あの世で退会希望を申し出ても「三途の川渡船証明」や「前世契約誓約書」の提出を求められるなど手続きが煩雑。消費者庁霊界支部の紗那美(さなみ)主事(没後115年)は「死してなお“解約地獄”があるのは課題。標準化ガイドラインの制定が急務」と語る。幽界経済の活性化と規制のバランスをどうとるか、今後の対応に注目が集まる。
現世の“便利”は異界でも追い求められ、恩恵と混乱が複雑に絡み合っている。最新調査によれば、“いつでも、どこでも”の安心を重視する一方で、「サブスク疲れ」を訴える霊魂も増加傾向にある。幽世の定期便生活、その発展はどう着地するのか──不透明な未来を見守りたい。
コメント
まさか幽界でもサブスク疲れが流行るとは!生前に解約忘れて呪縛されるなんて、ちょっと笑えないよね。三途の川の証明持ってないし、これは困った…
夜露エッセンスふきん、私も愛用してますよ。分かります、あれ生前の雑巾よりずっと拭きやすい!配達すり抜け問題には毎回あの世の無力さ感じますが、まあそれもご愛敬でしょうか。
幽eリーダー、解約地獄はほんと地獄です(笑)。あの長文アンケートで私も昇天しかけました。読める本は素晴らしいんだけどなぁ…
逝車のサブスク、事故って煙になるオーナー霊の投稿が毎回切なくて…。生前もこっちでもローンやポイント問題、何も変わらないんですね。少し懐かしい気もします。
死んでも手続きが煩雑なのか…現世で散々苦労したから、せめて幽界では魂の自由を味わいたいものです。規制、無い方があの世らしくて好きなのだけどな。