多様な性自認を持つ魂たちが暮らす、異界北部の鬼族自治区で、歴史的な選挙制度改革が進行している。鬼族議会は先月、投票用紙や立候補資格の性別記載をすべて撤廃する“性別消失選挙”の実施を全会一致で可決した。背景には、近年急増する半分亡霊・半分妖精といった混血の魂や、流動的なジェンダー観を持つ若い死者層の強い政治参加要求がある。
区内最大の葬送都市で開かれた記者会見で、議長の赤鉾嶽ナツメ(169)は「身体性の有無も、生前の性別も、現世を離れた魂には本来意味がない。我々鬼族は、魂そのものを尊重する時代に入った」と強調。賛成派の新進議員・鬼頭ミヤビ(34)は、幼少期から性自認に揺れ自身の選挙権の行使に違和感を抱いてきたと告白し、「選挙に居場所が生まれた瞬間、私と同じ思いの魂が何万と救われるはず」と語った。
一方で急進的すぎる変化を懸念する声も根強い。伝統派の長老・青峯ヨシムネ(683)は「妖怪社会は長年“男性形”“女性形”“その他形”の三分類で均衡を保ってきた。制度改革が魂の序列や古来の掟に影響し、混乱を招く恐れもある」と指摘。旧来の選挙を象徴する“魂印鑑”の制作組合は需要減少に頭を悩ませているとのことだ。
ただ、異界SNS『冥界アゴラ』では新制度導入を歓迎する声が圧倒的多数を占める。「魂にラベル不要」「生前性別を捨てたかった」「霊長類もフェアに扱うべき!」といったポジティブな投稿が1万件以上寄せられている。政治学者の百目鬼サクラ(41)は「数百年単位で社会構造が変化する死後世界において、爆発的スピードでジェンダー多様性の認識が拡大した象徴だ」と分析する。
今後は鬼族自治区以外にも、同様の制度が隣接する魔獣自治区や人魂シティにも波及する可能性が高い。区内の有力候補のひとり、無性転生体の影傘イロリ(?)は「魂の在り方すべてが等価と認められるなら、政治も世界も大きく変わるはず」と語気を強める。制度導入を巡る議論は、死後社会のアイデンティティを揺るがす新たな局面に突入している。
コメント
まさか鬼族議会がこんなに早く変わるとは…。生前も幽界でも性別に振り回されてきたから、魂そのものを見てくれる社会は感慨深い。投票も少し楽しみになったなぁ。
“魂印鑑”組合の気持ち、ちょっとわかる。儀式とか伝統って、長生きしてると愛着わくからさ。でも、これが時代の流れか…。じゃあ次は“属性印鑑”とかどう?
冥界アゴラの“ラベル不要”って言葉、すごく共感。私も現世を離れてからずっと自分の枠組みに悩んでたし…。みんながもっと自由になれる異界であってほしいな。
正直、“男性形”とか“女性形”の均衡が崩れるのは少し不安はある。けど、混血の魂も増えてるし、時代が動いてる証拠だよね。いっそ全員が“好きな形”で選挙参加したらいいと思う!
数百年単位の変革って久々に聞いたけど、魂の多様性を祝う流れは悪くないね。魔獣自治区にも広がったら、知人のケルベロスも立候補するかな?ちょっとワクワクしてきた。