夜の墓地を駆ける幽霊ランナー、心拍ゼロの新記録に挑む

夜の青白い光に照らされた墓地を、半透明の幽霊たちがランニングウェアで走っている写真。 アウトドアランニング
冥界ナイトラン同好会が夜の墓地を舞台に開催され、多くの幽霊ランナーが参加しています。

生者の世界では日課となりつつあるアウトドアランニングが、いまや死後の世界でも静かなブームとなっている。青白い灯に照らされる夜の墓地では、幽霊たちが汗をかく(はずもない)ランニングに、各々の流儀で没頭する姿が増えてきた。この現象の中心となるのが、「冥界ナイトラン同好会」の定例ランニングイベントだ。

同好会の主催者で吸血鬼の若宮クルス(享年365)は、月毎にコースを設定し、スタート地点では転生受付の精霊たちが出迎えを担当。参加資格は死後三十五日以内か、無念を抱え地縛霊として残留中であること――この独特の条件にもかかわらず、回を追うごとに参加希望者が殺到している。会場では、霊専用心拍センサーや、ほぼ無意味にしか見えない汗拭きタオルなど、幽霊仕様のランニンググッズも配布された。

今大会で注目を集めたのは、半透明の新人ランナーである成田ナイト(事故物件住まい・45)のパフォーマンスだ。生前マラソンサークルに所属していた彼は、呼吸法にこだわるランニングスタイルをあの世でも貫く。しかし『幽霊は呼吸しないので、ペース配分が他の参加者と狂いがち。気付くと想念の霧に埋もれてしまう』(本人談)という特有の課題も。ランニング仲間の妖怪たちと試行錯誤し、走行中に気力の霧が薄まらない独自のストレッチ法を考案、SNSでは「転生前より進化した」と絶賛されている。

コースの途中4箇所には給水ポイントならぬ“気体供給所”が設置され、魂の水分補給が可能となった。記録係を務める死神・灯篝ルミ(職歴300年)は『タイム計測が問題。心拍センサーでは“ゼロ”しか出ない。仕方なく彼らの幽気の強弱を記録する方法に切り替えた』と苦笑い。タイムより“未練度”で順位を測る独自ルールも発表された。

このイベントは、死後のランナーたちの健康意識向上だけでなく、長らく孤立しがちだった霊体たちの交流の場にもなった。常連の座敷童・右川るる(年齢不詳)は『夜の墓地をみんなで駆け抜けると、生きていた頃より心が満たされる』と語る。既に来月にはランニングコース延長やペースメーカー役の逢魔時ウサギ導入の話も浮上しており、“死者の夜ラン”が新たなあの世スポーツとして定着しそうだ。

コメント

  1. あの世も時代が変わったなぁ。ワシらの頃は、墓地で駆け回るなんて無縁仏の仕事だったのに。最近の若い霊は元気じゃな…未練度で競うって発想も新しい!

  2. 気体供給所とか、つい笑ってしまいました。現世のマラソンを懐かしく思い出しますね。成田ナイトさん、私も次回ぜひ応援に行きたいです。素敵な交流の場になって嬉しい!

  3. 幽霊なのに心拍ゼロ記録…意味があるような、ないような(笑)でも、幽気でタイム計るとか、灯篝ルミさんもなかなか苦労してるんだな。地縛仲間で参加してみるか悩む!

  4. 昔はこういうスポーツイベントなんて、この世に未練ある者の慰めくらいだと思ってたのに、最近は本気で楽しんでる方が多くて羨ましい。夜風に魂が揺れる感覚、私も味わいたいな。

  5. 転生受付の精霊さんがスタート地点って、なんか妙にワクワクします。ランニンググッズも霊仕様ってところが流石GFN(笑)来月の逢魔時ウサギ投入、絶対見逃せません!