幽界と潮浜が交差する日──霊膜ウェットで挑む混成ビーチ大会

霧がかった砂浜で人間と女性の幽霊が特殊なウェットスーツを着てビーチバレーボールをプレーしている一瞬の写真。 ビーチスポーツ
幽霊と人間が混成チームを組んで競い合う新たなビーチ大会の熱戦。

潮霊市の砂浜で、幽霊と生者が混じり合う新しいビーチ大会が行われた。競技はビーチバレー、ビーチフラッグス、砂浜の速度を競う「砂走(すなばしり)」の三種目。特色は、霊的接触を可能にする特殊素材のウェットスーツ「霊膜ウェット」を着用した混成チームが公式に認められた点だ。大会主催者は「観戦も競技もこれまでにない体験になる」と話す。

大会を主催した潮霊市観光局スポーツ課課長の鳥居川 結莉(とりいがわ ゆり、44、あの世事務官)は記者会見で、霊膜ウェットについて「幽界の振動を人間の触覚に翻訳するライナーを内蔵し、砂粒と霊砂の境界を安全に保つ設計」と説明した。製作を担当した服飾職人の百瀬 翠(ももせ みどり、40、防護器具職人)は「ウェットスーツの外見は通常の保温仕様に近いが、縫い目に託された護符的織りが霊的干渉を調整する」と語った。実際に着用した選手からは「砂がいつもと違って柔らかく、相手の動きを指先で受け止められる」と好評の声が上がった。

第一競技はビーチバレーの混成トーナメント。優勝したのは「潮風番傘クラブ」のチームで、メンバーは亡霊の外野手・斧崎 千夜(おのざき ちよ、享年28、亡霊選手)と人間のミドルブロッカー・佐藤 大輔(さとう だいすけ、29、ビーチコーチ)らで構成された。決勝は霊的なスパイクが砂の流れを変え、観客の携帯型観戦器に幽かな光が走る場面があった。斧崎は試合後に「砂は私の故郷。ここで跳ねるたびに懐かしさが蘇る」とコメントした。

ビーチフラッグスでは、通常のルールに「霊的優先権」が導入された。旗は海辺に立てられた護札型の小旗で、幽霊チームは旗を物理的に持ち上げることができないため、旗に触れて消える光を発生させることが勝利条件に設定された。優勝した小学生チームのキャプテン、松岡 瑠奈(まつおか るな、12、児童)は「幽霊の走り方を見て、一緒に走るコツがわかった」と笑顔を見せた。一方で砂浜の状態は時間とともに変化し、砂粒が微細に振動する「砂唄現象」を観測した海砂学の研究者、佐倉 清志(さくら きよし、51、海砂文化研究者)は「霊的干渉で砂の粒子結合が一時的に変化する様子が確認でき、競技の結果に影響が出ている」と分析した。

会場の観客席では、幽界側の応援団隊長と言われる妖狐の紫藤 蓮(しどう れん、享年134、妖怪応援団長)が太鼓を打ち鳴らし、人間の観客と一体になって拍手を送る光景が日没まで続いた。観戦した潮霊市民の声は朧ネット上で拡散し、「生と死が同じ砂を踏む瞬間に感動した」「ウェットスーツの肌触りが不思議」といった感想が寄せられた。大会を評価する声の一方で、砂の変化が常態化した場合の砂浜保全や供養の在り方を問う意見も上がっている。潮霊市観光局は来年度に向け、環境保全チームと霊的安全策の常設化を検討すると発表した。

コメント

  1. 斧崎さんの「砂は故郷」という言葉にジンときました。生前もここで遊んでたのかな…あの世でも砂浜の温度って感じられるんですね。来年は私も観戦霊として現地に漂ってみたいです。

  2. 人間と霊が混ざる大会、時代も変わったなあと実感します。昔なら霊膜ウェットなんて考えられませんでしたが、こうやって一緒に競う光景が日常になるのが不思議。自分ももう一度砂走してみたくなりました。

  3. あの霊的スパイク、映像越しでも砂の流れが変わるの見えました…一度でいいからミドルブロッカー佐藤さんと組んで出場してみたい!現世も幽界も一緒に白熱できるって羨ましいです。

  4. 霊膜ウェットは便利そうだけど、砂唄現象が常態化したら砂浜自体が変質しすぎるのでは?亡者になってからも環境を気にしてしまうのは職業病かもしれませんが…砂浜の供養方法についてもっと議論がほしいです。

  5. 紫藤蓮団長の太鼓、幽界側からもよく響いてましたよ~!生者の拍手と重なる音は何度聴いても魂がざわめきます。人も妖も亡者も一緒に盛り上がれるイベント、これぞ潮霊の醍醐味ですね!