死後の経済圏で今、ちょっとした波紋が広がっている。百鬼夜行通商連合(HYKTU)は、この世から「あの世」への呪文帳の輸出規制を強化すると表明したのだ。最新の規制は、デジタル情報の霊界間流出を懸念したもので、老舗呪文帳メーカー「百書房」や新興のデジタル妖札業者に激震が走っている。妖怪たちの暮らしに不可欠な呪文帳産業は、時代遅れと揶揄されながらも、奇妙な形でグローバル復活を遂げつつある。
妖怪社会の通貨と言われる呪文帳は、江戸末期から続く重要産業だ。しかし、近年は人間界のデジタル魔道具や幽霊AIの台頭で、伝統産業としての地位が脅かされていた。ところが今年春、東方幽界との靄(もや)協定によって、呪文帳が再び必要不可欠な貿易アイテムとして注目されるようになった。靄協定では霊的通信の一部暗号化に呪文帳が必要となったためだ。
こうした流れの中、通商連合は呪文帳原本の過剰流出を防ぐため、輸出には厳格な認証ラベルが必要とする方針を決定。筆頭交渉官・骨女理沙(ほねおんな りさ)は『私たちの呪文帳なくしては異界の安全保証はない』と断言した。しかし一方で、既存の保護政策により幽界内の起業家や若手霊体たちからは反発の声も。屍童商会の若旦那、骸木グレン(むくろぎ ぐれん・213歳)は『新たな発想やデジタル変換を妨げれば、未来の霊体経済は育たない』とSNS上で持論を展開している。
国際会議「アストラルTPP」では、幽霊や精霊たちが呪文帳のデジタル化とレガシー(旧版)保護の両立について熱い議論を行った。とくに西方凍土連邦代表の白狐夫人(しろぎつね ふじん)は『グローバルな呪文ネットワーク構築には、伝統技術保存だけでなく新規参入者の自由も不可欠』と訴え、死後の経済圏における規制緩和論が浮上している。専門家の冥都大学・違岩鏡教授(いわち かがみ)は『規制強化による一時的な内需拡大は見込めるが、閉鎖的な霊界経済は長期的には自滅するリスクがある』と懸念を示す。
一方、古参の呪文帳職人・河童連(かっぱ つらねん、319歳)は伝統産業の息吹を感じてやまない。「ここ十年で再注文が激増。一度廃棄された木札や蘭札が海外霊体から逆輸入されてきて驚いています。まるで呪文の文化財保護だ」と目を細める。復活の兆しを見せる妖怪呪文帳産業は、果たして規制の波を越えて、本来の霊的グローバリズムを実現できるだろうか。死後の経済地図は、今まさに大きく書き換えられつつある。
コメント
こんなに呪文帳が注目される時代が戻るとは、転生99回目にして初めて見ました。懐かしき木札の香りがまた霊界を満たすのかと思うと、しみじみですね。
規制も大事だけど、若い霊体のアイディアを摘まないでほしいなぁ。あの世に来てからも進化って続くんだし、デジタル呪文帳にも期待してます!
呪文帳原本のラベル厳格化とか、また役所系の幽魔が仕事増やしてる気がします…。幽界にも官僚主義の亡霊は健在なんですな。
私の国でも蘭札の再流行は話題。異界間でルールを決める時、伝統と革新は両方大事。成仏前に新旧呪文帳のコレクションを充実させたいです!
人間界のデジタル魔道具が怖いと思ってたけど、木札や蘭札が海外から戻ってくる話にはほっこりしました。異界でも流行は巡るのですね。