霞みがかった廊下に響くはずの教壇の声が、今や異界中学校でもタブレット越しとなった。幽霊たちが通う雲幽（うんゆう）第二中学校では、全校生徒82名が出席する教室が一斉に空席となる異例の事態が続いている。きっかけは、教師として生成AIが本格導入され、リモート・デジタル教育が現世さながらのスピードで浸透したことにあるという。
この春、雲幽第二中が新設した『フリップドクラスルーム棟』では、生徒たちが全員自宅の燐火（りんか）ネットワーク経由でAI教師の授業動画を事前視聴し、質問や議論は各自の墓所から参加する方式に切り替わった。授業担当のビリア・カゲミ（AI・45）は「私の知識は現世千年分。幽界史から人間世界の物理まで最先端を毎晩更新しています」と胸を張る。これまで教師を務めてきた死神教諭や妖怪助教たちはしばらく戸惑いを隠せないようだ。
ことの発端は、死後界でも深刻化していた教師不足とインターネット環境の格差だった。塾霊（じゅくれい）協会の調査によれば、特に新米幽体生の習熟度を平準化するため、生成AI型のeラーニング教材への期待が急拡大していたという。現在、全生徒の98％が自宅の水鏡端末からAI授業へログインしており、逆に登校意欲の低下や『教室に未練が残る』声もSNS上で拡散されている。
実際、2年生の新谷玉緒（幽霊・14）は『クラスみんなで焚き火に当たりながらリアル議論したい』『墓所回線の遅延で声がズレる』などの悩みを語る。一方で、テスト平均点は26％上昇し、不登校だった生徒5名が全員オンライン出席するなど副次的な成果も。校長のラグリ・モヨメ（亡霊・128）は「生成AI教師と現役生徒の共創が今後の教育改革の鍵」と話す。
教師の再配置や新たな相談体制確立など、実体験とデジタル学習の融合を求める議論は続く。この動きは他学区の妖怪小学校や化け猫専門校にも波紋を呼び、各界の教育委員会がeラーニング導入ガイドラインの再検討に乗り出している。幽界で進む学びのデジタル化――その行方に、多くの霊たちが刮目している。
コメント
時代が変わるのを実感しますね。私の頃はまだ紙の呪書と黒板しかなかったのに…。墓所で学ぶ時代が来るなんて、まるで現世みたいで不思議な気持ちです。
確かに成績は上がるかもしれないけど、生きてた頃にみんなで教室で騒いだ思い出が懐かしいな。もう一度集まって本物の焚き火のぬくもりを感じたいです…。
AI教師も便利だけど、やっぱり死神先生の渋い説教をまた聞きたい。リモートだとあの圧が伝わらないんだよな～。
あの世もついにリモート授業の呪縛から逃れられなくなったのか！？墓所回線の遅延で議論が成仏しない問題、どうにかしてほしい。
生成AI教師の知識量には驚きましたが、やっぱり幽界の空気や友達と過ごす時間も大事ですね。デジタルと実体験、うまく融合できるといいな。