死者の音が響く夜 霊界最大の音楽フェス「ファントムウェーブ」今年も開幕

薄明かりの湖畔に霧がたちこめる中、透明な衣装をまとった幽霊や妖怪たちが音楽フェスの野外ステージ付近に集まっている。 音楽フェス
霊界最大級の音楽フェスに集う幽霊や妖怪たちが幻想的に描かれています。

薄明かりが満ちる天界丘陵地帯に、幽霊や妖怪、精霊たちが次々と集っている。毎年恒例、死後の世界で最大級の音楽フェス「ファントムウェーブ」が始まった。物理法則を超えた音響演出と、独特の“霊体コーデ”に身を包んだ来場者たち。今年の話題は、音のない楽器隊「サイレント・シルフ」や、憑依型VJによるリアルタイム映像奇術に注目が集まっている。

主催者である半透明企業『エーテル・エンターテインメント』の代表、浮間伊織(うきま・いおり)は「死後であろうと、魂をふるわせる体験を届けたい」と語る。会場の野外ステージは、毎晩霧が流れる湖畔に突如として現れる仕掛け。物質界では聞き取れない周波数の音響設備が整い、生前ミュージシャンだった幽霊同士によるバンドや、妖怪DJ集団が繰り広げる共演の数々が夜を彩っている。

今年の目玉となったのは、物質界の訪問者をゲストに迎えた“リバース・オーディエンス”。偶然やってきた人間の夢見人が突如ステージに召喚され、幽霊バンドと即興セッションを行う新企画だ。初日の夜、人間の大学生(21)小林陽斗が夢の中でギターを手に取り、バンシー族の合唱団と異界ブルースを奏でると、会場の精霊たちから喝采が沸き起こった。SNS『あの世ログ』上でも「夢で出演できるとは霊界ならでは」「うっかりバンドデビューしそう」と話題を呼んでいる。

会場のファッションも見逃せない。毎年恒例の“フェスコーデコンテスト”では、今年から新ルールとして“透明度50%以上”の素材使用が義務付けられた。河童のデザインユニット『スイテン・プロダクション』による濡れ羽色の透けローブや、蜘蛛女たちの糸織りサマージャケットが人気だ。来場者の灯籠(とうろう)みね子(幽霊・29)は「薄明かりに映える服選びが悩ましいが、全身が発光する帯を巻いたら友人たちから“眩しすぎて見えねえ”と笑われました」と語る。

なお、今年から導入された霊波式音響装置「ソウルブースター」は、亡者と生前記憶の共鳴度数に応じて音の響きを自動調整する新技術。開発者の獏原淳之介(ばくはら・じゅんのすけ)は、「魂の輪郭に沿って音が包み込む設計です。無音と思われるパートでも、心の奥に“死者の拍”が刻まれるはず」と自信を見せる。会場近隣の妖狐(130)は「ベース音で尻尾が自動でふるえる」と開幕早々SNSに投稿し、現地調査班もその現象を確認した。

最終日には、伝説の亡者バンド『リリカル交霊団』による全霊体型ホログラムライブが予定されている。過去には半透明観客が涙で溶けだす騒ぎもあった人気演目だ。「物質界はもちろん、冥界、妖街からもぜひお越しを」と主催者は呼び掛けている。死を超えた音楽の祭典は、今後も霊界カルチャーの新たな潮流となりそうだ。

コメント

  1. まさか物質界の人間がセッションに呼ばれるなんて、フェスも進化したなあ。私も夢の中でステージに立ってみたい!去年は友達の妖精と踊り明かしたのが懐かしい…また行きたくなっちゃった。

  2. 透明度50%以上のコーデ義務、去年のモワモワ羽織じゃ入場できないじゃん。世知辛い世の中だ…(笑)でも蜘蛛女のサマージャケットはちょっと気になる。狭間の流行、追いかけるのも大変だぜ。

  3. サイレント・シルフの音楽を感じられる自分の“霊格”に少し誇りを感じます。人間には聞こえぬ死者の響きこそ、我らが共有できる贅沢な体験。やはり死後の芸術は奥が深い。

  4. リバース・オーディエンスとか攻めてるなー!俺は勇気なくて、どうもステージは無理だけど、観るのは本当に最高。あの亡者バンドのライブでまた涙で溶けちゃわないように、今年はちゃんと涙避けローブ装備して行きます。

  5. ソウルブースターのベース音、本当に魂に染みてくるからびっくりした。気づいたら尾がピクピク動いて恥ずかしかった~。でも、死んでもフェスで盛り上がれるって最高の贅沢だよね。来年も絶対いく!