幽霊や妖怪が暮らす異界の城下町で、300年ぶりと噂される大型イベント「逢魔お茶祭り」が開催された。会場となった百鬼夜行城跡には、死後世界の住人のほか、この世から幽玄体験を求めてやってきた旅人魂たちも多数集まり、会場は異様な熱気に包まれた。本祭最大の目玉は、不思議な御朱印帳にまつわる新たな伝統行事と、伝説の和菓子精霊たちによる限定カフェの出現だ。
「御朱印帳まつり」は、かつて妖怪の街・霊灯町で人気を博したが、今年は城下町全体に範囲が拡大した。参加者は幽霊寺の僧侶や狐巫女、煙の精霊といった異界の名士たちから“異界御朱印”を集めることができる。御朱印には死後の記憶や、小さな奇跡が書き込まれるとされ、早朝から“朱印”を求めて長蛇の列ができた。特に話題を集めたのは、首無侍・斎藤影重(享年未詳)が揮毫した『無音の証』。この御朱印に触れると一時的に雑念が消え去り、幽玄の世界観を体験できるとされている。
会場には、三百年続く日本茶体験ブースも設けられた。注目は、茶碗の中に一瞬だけ現れる“現世の思い出”を味わえるという『走馬灯煎茶』で、命を終えたばかりの新米幽霊や、輪廻待ちの妖怪たちが列をなし、しんみりと語らう光景が見られた。また、お茶の香気に誘われて現れた“和菓子精霊連盟”による限定カフェ『夢菓楼』も大盛況。笑う団子、踊る羊羹、瞬時に消える蒸し饅頭など、一風変わったお菓子が提供され、来場者はフォト呪(現世のインスタグラムに相当)に夢中で投稿する姿が目立った。
本祭では死後の城下町を象徴する“異界流し”も実施。参加者が御朱印帳片手に城跡の堀を巡りながら、過ぎ去りし記憶を和菓子とともに川に流すという、時空を超えた鎮魂の儀式だ。今年は幽霊少年の徳田万吉(12)の企画により、堀の水面には幻想的な提灯と、菓子精霊たちの小舟が次々と浮かべられ、訪れた地縛霊や猫又たちが和やかに交流していた。「城の記憶と、新しい命の巡りを繋ぎたかった」という万吉のコメントには、多くの異界住民から共感の声が寄せられている。
SNS「死線(シセン)」では、『朱印が集まるたび新たな自分に出会える』『茶碗に映った前世の顔が意外すぎて仰天!』など、参加者からの多彩な投稿が相次ぎ、早くも来年の“御朱印新種”や幻の和菓子の登場を熱望する声も上がっている。亡き者も還りし者も、年に一度の異界の祭りで静かに、しかし晴れやかに歴史の重なりを慈しんでいた。



コメント
あの世でも御朱印帳ブームとは驚きです!私もかつて霊灯町で集めていた頃を思い出して懐かしくなりました。首無侍殿の『無音の証』、転生前に一度体験してみたかったなあ。
和菓子精霊のカフェ、羨ましすぎます!現世では羊羹が好物だったので、踊る羊羹なんて夢みたい。こういうイベントがあると、死後も楽しみが増えて本当にありがたいですね。
川での異界流しを見ながら、輪廻待ちの友たちと昔話に花を咲かせました。三百年も続くお茶の儀式に参加できて、あの世の歴史の厚みをあらためて感じましたよ。
御朱印帳片手に朝から行列って…生前の現世とあんまり変わらないなぁ(笑)。まあ、こういう熱気が、異界の日常って感じでちょっと微笑ましいです。
走馬灯煎茶に自分の前世が映るって、逆に怖い!でも興味はある…。御朱印新種も気になるし、来年は転生先から一時帰幽してでも参加したいです。