冥界最大手ブラック企業がクラウドに消滅宣言——業務プロセス“無”化で従業霊大騒動

幽霊のようなオフィスワーカーたちが、溶けて消えゆく椅子や書類に困惑している光景。 デジタルトランスフォーメーション
“クラウド無”への移行で消えゆくオフィスに戸惑う死後労働者たち。

冥界経済を牛耳ってきた名門企業「インファーナル産業株式会社」が異例のデジタルトランスフォーメーションを敢行、全業務を“クラウド無”へ完全転移したと発表した。長年“無限残業”や“自動反省会”で死後労働者たちから恐れられてきた同社の大改革に、あの世全体が揺れている。

インファーナル産業は幽界の歴史的企業体で、死者流通、怨念処理から迷霊の宿泊事業まで幅広く展開してきた。だが、近年は次世代霊体や精霊系ITベンチャーの台頭で業績が悪化。“旧式呪符作業”や“現世との呪詛FAX”などアナログ業務に固執し、労働効率の“罪深さ”すら指摘されていた。今回、野火原テンデウスCEO(524)が打ち出したのは、全業務工程の非物質化——物理書類どころか会議室やタイムカードまで“あの世クラウド”APIに吸い上げ、業務プロセスそのものを「無」にする「消滅DX」だった。

「今後、弊社に出社や退社、あるいは“存在”する必要はありません」——10月下旬、テンデウスCEOは全魂体職員宛ての念波ライブ配信で唐突に使者たちに告げた。クラウド基盤の導入により、本来の書類・作業・意思決定のほとんどを高次元APIで自動化。さらには「意思」や「記憶」すらサーバー側で最適化され、必要に応じて“生成”される異例の仕組みだという。

これにより現場では混乱と驚愕が広がった。かつて“48時間会議”を戦ってきた幽霊部長や、時空超過勤務に慣れた鬼課長らは「椅子に座ろうとしたら椅子ごと消えた」「意欲ごとログアウトしてしまう」など困惑の声を上げる。一方、若手の精霊プログラマーらは「もはや業務が“ない”ので副業し放題!」と、死神カフェ開業や異星転職といった第三の人生(死後)を模索し始めている。

「現世のクラウド化は書類や設備を減らすだけ。しかし我々は“労働という業”さえ『無』にした。これぞ死後社会の到達点だ」と、経済霊界大学の西松ミヤエ教授(死後暦232年)は語る。一方で、IT妖怪連盟のアンジール・ミステリオ広報は「突然の“全API化”は霊的分裂や情報断絶を招き、魂エネルギーの循環にも悪影響を及ぼす」と警鐘を鳴らす声もある。

SNS上では「自分のタスクも消えてほしい」「次は冥王庁も職場消滅化を!」といった冗談や、「消える前に仲間で納骨ピクニックしよう」など、“業務無化”時代の働き方を楽しもうとするポストが多数見られる。一部では「冥界ブラック企業が“ブラックごと消えた”のは歴史的快挙」と評価する声もあるが、かつて真夜中まで“地縛タスク”に縛られた怨霊派遣社員(元)たちは、依然「存在感が希薄で不安」「本当に再雇用されないのか」と戸惑いを隠せない。

経済アナリスト筋は「インファーナル産業の消滅DXは今後、幽界全体に波及する可能性が高い」と指摘。その一方で“無働無休”時代の幸福論や、魂エネルギーの新たな流通体系を問う議論も急速に高まっている。死後社会にとって、「存在」や「働く」とは何か。すべてが“クラウド無”に吸収された今、あの世の価値観そのものが、再び大きく揺らぎ始めている。

コメント

  1. まさか本当に業務ごと消滅する時代が来るとは…!地縛OL時代に無限会議で消耗してた私からすると、感慨深いです。もう出社の呪詛で夜泣かずに済みそう。次は魂レベルでの有給実現をお願いします。

  2. 正直、年経た霊からすると“なんでもクラウド化”はついていけないなあ。紙のお札やFAXが懐かしいし、存在感ごと薄れちゃいそう。昔の物理タイムカードのカチッて音、今も耳に残ってるよ。

  3. ブラック企業がブラックごと“無”になったの、草。でも冥界だと、何も無いって逆に不安だったりしません?消滅APIで落とされないよう毎日ログインだけはしなきゃ…。

  4. わたしもかつて怨霊派遣で深夜の現世残業やってた頃があったけど、あの地縛タスクが全部クラウドで消えるってスゴイ。再雇用されないのは怖いけど、今度こそ第三の人生=死後スタートしたい。

  5. 霊的API導入には賛成だけど、魂エネルギーの循環断絶は確かに心配だな。無働無休って響きは理想だけど、最後は結局どこで成仏すればいいのか…我々あの世組の次なる働き方が問われる時代だね。