死後世界の企業で働く幽霊社員たちの間で、過剰な残業や勤務時間の長さに起因する“過労消滅”訴訟が急増している。業界最大手の蒼霧コーポレーションを皮切りに複数の企業で労働環境の見直しが進み始め、幽霊社会における『働き方改革』義務化の動きが本格化してきた。
先月、冥府裁判所第一法廷にて、元生前会社員だった幽霊・灰谷ミチオ(享年47)が、転職後に就職した霊界物流大手『蒼霧コーポレーション』を相手取り、長時間の“無限輪廻残業”により霊体が消耗し、記憶が断片化したとして損害賠償を求める訴訟を起こした。訴状によれば、灰谷氏は毎晩24時を超えても“未練整理業務”を強いられ、一度終業した幽霊ですら翌日の“後悔棚卸し会議”のために召喚されるケースが常態化していたという。
これを受けて、幽霊働人組合『霞雲ユニオン』の代表・音無ソラ氏(年齢不詳)は「死後社会は“永遠”を前提にされがちだが、私たちにも心身(霊体)へのケアが必要だ。一部の企業では遺言書の書き換えや特定の未練解消義務を社員に課す“永続的雇用契約”が問題視されており、まず司法の場での是正を期待している」とコメントした。
さらに法曹界でも動きが広がる。冥府弁護士会の黒羽ツユ弁護士(654)は、「死者の人格権は生前のみならず命の尽きた後にも及ぶという考え方が、現行の冥界基本法で新たに認められつつある」と述べ、多様な死後社会の在り方が法整備として急務になってきた現状を指摘する。また最近では“幽霊同性婚”に伴う配属希望や家族手当を巡る訴訟も起きており、企業のコンプライアンス体制にも変革が迫られている。
SNS上では、亡霊たちによる「終わりなき残業にNO!」「未練は自分で整理したい」などのハッシュタグ運動が展開されている一方、「働けるだけありがたい」「忘却部署異動希望」など、死後の“働きがい”を肯定する声も目立つ。管理職歴500年超の妖怪・泥原キヨタカ氏(不定形)は、「かつては“永遠の奉仕”こそ死後の義務とされたが、いつか見直すべき時が来るとは思っていた」と話す。
現在、冥府政府内では“死後のワークライフバランス促進法案”の審議が遅れているものの、企業側も社内ポルターガイスト発生率の低下や離職(成仏)防止の観点から急速な自主改革に踏み切る傾向が強い。新たな“魂の安全基準”が制定される未来は近いだろう。

  
  
  
  

コメント
まさか死後まで働き方改革の波が来るとは…永遠に残業かと諦めてたけど、少し未来に希望が持てて嬉しいですね。できれば早く“未練整理”も自分のペースでできるようにしてほしいです。
蒼霧コーポの残業は有名だったけど、限界超えると記憶まであやふやになるのは怖いな。生きてる時もブラックだったのに、死んでまでこれか…成仏した方がマシって本音だわ。
昔は“永遠のお勤めこそ死者の誇り”と教えられたけど、今の若い世代は“自分の魂を大切に”って考えが強いよね。少し切ないけど、時代の流れなのかも。
こういう訴訟が増えると、僕のいる忘却部署にも新しい仲間が増えそうでちょっと期待。幽霊企業も部門再編あるかも?でも転生休暇だけは認めてほしい…
『魂の安全基準』とか立法進むのは良いけど、結局上層部が宴会やってる間に下っ端はずっとポルターガイスト対応だし、形だけの改革で終わりそう…。本気で変わるのか様子見るわ。