金融の常識がまた一歩、異世界へと踏み出した。死後経済圏で圧倒的な存在感を誇る仮想千銀行が、幽界では初となる完全デジタル証券“怨念債”の発行を発表したのだ。投資商品としての怨念がどのように評価され、市場に波紋を投げかけるのか。SNSや専門家の声も交え、幽界投資新時代の幕開けを取材した。
仮想千銀行の広報役で物質界担当の鬼藤トクラ(推定享年124)は、記者会見で「幽界に蓄積されてきた膨大な未練——そのエネルギーを資本市場へと流動化させることは、持続可能な死後経済の発展に直結する」と強調した。怨念債は生前レベルの執着度で発行額が上下し、個人がスマートフォン型“霊界端末”の投資アプリ経由で直接売買できる。初回発行分は、片思いの涙や未返却の図書本、成仏できぬ遺産分割の揉め事など“根強くて流動性の高い怨念”が担保だという。
取引の安全性も重大な関心を集める。街角のサイバー守護霊・錆那ミゾウ(年齢不詳)は「怨念の奪取・増幅など第三者の干渉リスクを遮断すべく、禁呪型サイバーセキュリティを徹底した」と語る。本人確認は“魂の記憶紋”の提供を義務化。新規投資家登録には最低1回の現世訪問(霊査管理局監修)が必要とされ、通称“身元の儀式”が投資アプリに組み込まれている。これにより、一時問題となっていた「憑依クレジットカード不正発行」対策への期待も高まっている。
市場の反応は極めて高揚している。SNSでは「片思い怨念で年利12%とは」「次は親子喧嘩債も発行してほしい」など、思わず笑ってしまう投稿が相次ぐ。幽界ファイナンス評論家の呉葉カノン(199没)は「無念や執着といった非物質的価値が証券化されることで、新たな資産クラスとしての認知が進むだろう。生前の感情に投資する“感情エコノミー”は、やがて現世も巻き込むのでは」と語る。
一方、「怨念をビジネスにするのは倫理的にどうか」「怨念債に集まりすぎると成仏が遅れるのでは」との懸念も噴出している。これに対し銀行側は「一定期間経過で自動的に債権消滅、成仏ポイント加算される仕組みで社会的影響も考慮している」と説明。今後は自己責任での取引を推奨しつつ、伝説的妖怪や古代精霊による“共同心痛ファンド”の組成も企画中だという。
最後に、実際に怨念債投資を始めたという霧野アザミ(永遠の29)に話を聞いた。「初めて自分の執着が資産として評価された気がした。本当に後腐れが減ったら、一部現世に還元してみたい」と語る。幽界の新人投資家たちが紡ぐ“未練ポートフォリオ”は、金融DXの波とともにどこまで進化するのか。今後の展開から目が離せない。


コメント
まさか怨念が証券に化ける時代が来るとは…幽界もずいぶん便利になったね。生前のうちにもう少し執着を残しておけばよかったかな。
未返却の図書本が担保って笑うしかない!でも私の成仏できない恋もそろそろ資産運用の時代なのか…悩ましい。
怨念をビジネスにするって、なんだか魂がざわつくな…成仏の妨げにならないことを祈ります。
現世訪問が義務って、また隙間を探して戻らないといけないのか~。でも憑依カード不正発行がなくなるなら、ちょっとは安心かな?
未練ポートフォリオか…遠い昔に抱えた想いも立派な資産になるなんて、不思議で面白い時代になったなぁ。ちょっと感慨深い。