死後の世界フォレスト区の北部に広がる“陽影の森”で、幽霊たちと精霊昆虫が協力する新たな森林保護プロジェクト「精霊カブトムシ隊」が本格的に活動を開始した。かつて樹木や妖花が過剰な魔素採取で弱体化し、生態系の危機が叫ばれていたこの森が、昨今、驚異的な回復傾向を見せているという。
今回のプロジェクトは、環境管理局幽界支部の主任である白月葵(しらつき・あおい、幽霊・247没)と、伝説の甲虫精霊エクサス・アルダが中心となって発足。「地上界と異なり、幽界では無限に資源が湧くとの誤解が蔓延している。しかし持続可能な森のためには生と死、精霊と幽霊の本格的な共生が不可欠だ」と白月主任は語る。精霊カブトムシ隊は、夜半に森を巡回し、倒木の再生成や魔素の過剰排出の抑制を担当。森の動植物――とりわけ妖草や浮遊花粉精――と小さな“循環契約”を交わし、その生育ペースをきめ細かく管理している。
エクサス・アルダ隊長によれば、幽界式のサーキュラーエコノミー(循環型経済)は、地上世界の再生可能エネルギー活用とは異なり、「精霊たち自身の寿命・転生サイクルそのものを資源循環とみなす流儀」だという。たとえば、朽木となった大樹幽霊が自発的にカブトムシ隊へ養分と魔素を提供、その見返りとして新たな若木精霊への転生サポートを受けるといった仕組みだ。ゆえに、無秩序な植生拡張や食物霊の浪費(いわゆるフードロス)は厳しく監視され、森に残るエコロジカルフットプリントも計算されている。
森の訪問者からは「夜光葉の並木道がより鮮やかになった」「定点カメラに映る妖鳥の種類が増えた」など、SNS〈亡者のさえずり〉でも喜びの投稿が相次いでいる。2世紀ぶりに目撃された“鏡羽の蝶”の降臨は、特に生物多様性保全の指標として話題を集めた。定期的に実施される幽界エコツアーへの参加者・霊数も前年比で4割増を記録している。
専門家である冥界大学・自然再生学講座の黒墨揚介(くろずみ・ようすけ、妖怪・302歳)は「死後の世界でも無制限な開発欲求と環境負荷は深刻な問題。精霊カブトムシ隊のような自主的保全活動が、あの世のサステナブル志向を現実にした」と評価している。一方、過去に魔素採取で利益を得ていた一部の幽霊企業体は「保護政策が経済活動を窒息させる」と懸念も表明。今後は“生命と死後の命の調和”というテーマの下、関係者間で持続可能性の新たな指標策定が求められそうだ。



コメント
夜半にカブトムシ隊が巡回してるなんて、久しぶりにあの森を歩きたくなりました。生前よりもずっと鮮やかな夜光葉、あれは幽界ならではの美しさですね。
昔はあの森で好き勝手に魔素を採って怒られたもんですが、今はこうして精霊と手を取り合う時代なんですねぇ。鏡羽の蝶、また見てみたいもんです。
あの世にだってフードロスやエコロジカルフットプリントなんて言葉があるとは…ちょっと驚き。でも幽霊でも自然再生に本気で取り組まないと、転生サイクルにも影響しそうですしね。
まあ結局、保護かけすぎて昔みたいに自由に魔素採取できなくなったんだよな。全部サステナブルにすれば良いってもんかね?ちょっと世知辛い世の中になったもんだ。
循環契約の管理、本当にきめ細かくなりましたね。浮遊花粉精としては嬉しい限り!若木精霊の転生も増えてるし、森がまた息を吹き返したようで感動しちゃいます。