冥界北西部の幻森(げんしん)では、昨年秋からカラスたちによる新たなサステナブルファッション・ムーブメントが静かに広がっている。幻森カラス委員会が主導し、脱皮後に落ちた羽根をアップサイクルした『サステナ・ネストウェア』プロジェクトが、幽霊や妖精たちの間でも注目を集めている。
幻森のカラス社会では、春秋の変わり目ごとに大規模な羽根の抜け替えが恒例となっており、毎年およそ一万枚以上の羽根が森の土壌に舞い落ちていた。かつては、それらの古羽根が自然分解されるまで数年を要し、一部の妖精農家から『カビの温床になる』との指摘もあった。カラス委員会広報・烏丸墨吉(からすま・すみきち、243)はこう語る。「羽根の再利用が進まないのは“終わったものに頼らない”というカラス独自の美学があったからですが、時代の流れと森の環境変化を鑑みると、変革が必要だと痛感しました。」
そこで委員会は、幻森の有名な裁縫幽霊・針葉静香(はりば・しずか、享年38)とタッグを組み、落ち羽根を集積・洗浄・精製した糸で“ネストウェア(巣衣)”を新調。従来は豪華な黒羽根で装飾し合う見栄競争が主流だったファッション界に、質実剛健かつ資源循環型の新潮流がもたらされた。完成品は森のあらゆる巣にも配布され、羽根の抜け替えで傷つきやすい幼鳥のための“エコ羽毛布団”や、腐敗抑制成分を持つ“亡霊用ルームシューズ”等にも利用されている。
また、プロジェクトの独自性は収益の一部を森全体のバイオ多様性保護に還元する点でも評価が高い。針葉は「カラスの美しさも個性も、森あればこそ。羽根は森からの贈り物と考えなおし、恩返しの循環を重視したい」と話し、生物間の垣根を越えた協働姿勢を強調。これを受け、幻森コガネムシ評議会や樹精会議からも後押しの声明が発表されている。
SNSでは幽霊住民の間にも『死んでも新素材』『あたたかいのに透き通る着心地』『羽根毛布の魔力、知ってしまった…』(@uranohane)などの称賛の声が続出。採用一か月で地表の使い捨て羽根ゴミは前年比七割減となった。カラス委員会は今後、他の鳥族や幽森領域へのプロジェクト展開も計画中。“アップサイクル型あの世ファッション”という新常識が、今まさに森から異界全体へと羽ばたき始めている。



コメント
カラスたちがここまで環境意識高くなるとは正直びっくりです。私の頃は抜け殻はみんな腐るまで放っておいたのに…。これも成仏後の時代の流れでしょうか。羽根のルームシューズ、今度試したい!
抜け羽根が山積みになってた森の端っこ、昔は子どもたちの肝試しスポットでした。最近きれいになってて寂しい気もしますが、幼羽鳥や若霊たちのことを思えばいいことですよね。亡霊のあったかネスト、羨ましい…。
はっきり言って、カラスの美学“終わったものは見向きしない”は尊敬してたけど、自然との共生もまた格好いい。バイオ多様性保護に収益が還元されるのは、幽界社会でも前例のないチャレンジだと思います。
羽根布団、あまりに気持ちよすぎて一度横たわると三回転生分くらい起きられません(笑)。森との恩返しサイクル、死者の私たちにも新しい意味を感じさせてくれて温かいです。もっと広まればいいな。
妖精農家としてはカビの温床問題、本当に助かってます!カラスの皆さん、ありがとう。しかし、幽森領域まで展開したら、今度は羽毛アレルギーの骨妖怪が困らないかちょっと心配…。