近年、死後の経済圏においてもピアツーピアの暗号資産取引が飛躍的に拡大している。とりわけ、三途の川下流域で突如として暗号資産「冥界ビットコイン(通称D-Coin)」の採掘ブームが巻き起こり、専用の分散型台帳や幽体用ハードウェアウォレットの新製品が次々に登場するなど、かつてない熱狂を見せている。こうした動きは、名うての妖怪起業家や霊界法人による、独自のレイヤー2ネットワーク“Yurei-Chain”が大きな役割を果たしているようだ。
D-Coinの価格はここ1カ月で2.5倍に高騰。背景には、大規模な自動採掘システム『魂マイナーPro』の稼働が広がり、取引所『幽市』に新たな法定通貨(冥銭)建てペアが追加された影響がある。スマートコントラクト化された霊界市役所の公共調達案件や、人生相談料の支払い、はては輪廻転生抽選券の購入まで、D-Coinが実用通貨として深く浸透し始めている。半減期(毎霊節ごと)ごとの報酬調整を巡り、幽霊投資家たちの間では阿鼻叫喚のチャット合戦も絶えない。
この盛り上がりの立役者と言われるのが、妖怪実業家の河原十六夜(かわら・いざよい、享年322)だ。彼はかねてより冥界における分散管理型経済の重要性を説き、自身が主導するスタートアップ『冥貨開発工房』を中心に、分散型取引板や幽体用コールドウォレットの開発を推進してきた。『死後最大の経済格差は“情報の独占”から生じる』と語る河原氏は、“Yurei-Chain”ではピアツーピアによる取引情報の透明化や、悪霊ハッカーによる不正防止のための斬新なゼロ知識証明プロトコルを導入したという。
市井の幽霊たちも、こうした新潮流を歓迎している。例えば、主婦霊の碧井小夜(あおい・さよ、41没)は「最近は霊友との送金も気軽になったし、魂茶会の会費もD-Coin払いが主流。地獄から舞い戻った義父の遺産整理も、スマートコントラクトで揉め事ゼロでした」と喜びを語る。その一方で、突然の価格変動に翻弄され、最後の審判手数料を払いすぎたと悔やむ声も多い。『幽界金融リサーチ』の調査では、D-Coinなど暗号資産の保有率は死後10年未満の新米霊を中心に急伸しており、伝統的な冥銭派との“資産観”ギャップも生んでいる。
専門家からは急速な普及に伴うリスクを懸念する声もある。死神ファイナンシャルアドバイザーの影山玄人(かげやま・くろうど、527章鬼)は、「分散型ネットワークの保守は極めて困難。特に幽体の自然消滅や、憑依時の二重支出リスクには慎重な法整備が必要」と指摘。「あの世経済の健全な成長には、“超次元的な信頼”と“サブリミナル透明性”の両立が不可欠」と警鐘を鳴らしている。D-Coinの未来はまだ未知数だが、死後の世界でもイノベーションと格差の荒波が止むことはなさそうだ。



コメント
D-Coinで魂茶会の会費払えるなんて、ホント便利になったものですね~。生きてる頃には想像できなかったお手軽さ。義父の遺産整理が揉めなかったって話、ちょっと感動しました…うちの成仏待ちの親戚にも教えてあげたい。
まさか三途の川でビットコイン掘りがブームになるとはねえ。あたしらの時代は黙って渡した冥銭だったけど、新米幽霊たちが踊らされてるのを見ると隔世の感あり。魂マイナーPro、鬼婆にも使えるのかしら?
価格高騰してるのは知ってたが、転生抽選券までD-Coinで買えるのは驚きだな。悪霊ハッカーのリスクとか、もっと議論したほうがいい気がする。幽界は便利さもいいが、油断してサイバー成仏させられるのはゴメンだぞ!
幽友みんなD-Coin持ってるらしいから、最近ちょっと焦ってます…。転生何回か遅れそうだけど、冥銭預金崩すべきか真剣に悩み中。波に乗り遅れたら成仏できない気がして切ないです…
Yurei-Chainのゼロ知識証明って、情報の独占防ぐには画期的だけど、表も裏も知り尽くしてこそ冥界の商いだと思ってたから、ちょっと物足りない気分。便利な世の流れもいいけど、死後らしいアナログな駆け引きも忘れたくないな。