かつて誰も戻れなかった「黄泉原野」に、今や水色に透けた牛とおしゃべり好きな巨大ミミズたちが跋扈している。死後世界随一の荒れ地と呼ばれたこの地で、環境保全と肥沃な土壌の復活を目指す再生型農業プロジェクトが、幽霊農協と妖怪畜産組合連合による協働体制で進められているのだ。リジェネラティブ農業の最前線でいま何が起きているのか、現場に潜入した。
プロジェクトのリーダーである幽霊農家の夜霧翔一(よぎり・しょういち、372没)は語る。「肉体を持たない私たちでも、土地が痩せれば眷属は養えない。ここ十年で黄泉原野の魂麦の収量は三割減ったんです」。きっかけは枯れ果てた土の上で偶然見つかった極小のミミズ妖精、アカネクチミツキ(職業:堆肥談義員、享年不明)だった。彼女たちの微細会話を盗み聞きした精霊農民たちは、有機堆肥と間作による土壌再生の可能性を見出したという。
その後、妖怪畜産組合連合から半透明牛『ウシカゲ』種の群れが試験導入される。ウシカゲは1区画あたりの幽質カーボン吸着量が尋常でなく、夜露木による間作地で放牧するだけで大気から霊質炭素を吸い込み堆肥化。精霊クローバーや魔界大豆とのアグロフォレストリーも進み、地下のミミズとウシカゲたちの連携プレーが土の構造を劇的に改善し始めた。
だが導入初期、牛たちが夜半になると突然消失したり、ミミズ集会所で議論が深夜まで白熱したりと、霊界ならではの混乱もあった。その反面、SNSでは「半透明牛に踏まれたら一年幸運」「ミミズのうねり声でイライラ解消」といったポジティブな投稿が目立つ。妖怪畜産組合幹事の石舟龍太郎(いしぶね・りゅうたろう、死神補佐官、推定没年85)は、「再生型畜産とカーボンファーミングの親和性はあの世でも証明された」と胸を張る。
近年は、牛の歩みで魂粒子が撹拌される特殊な農法や、妖精監修の有機堆肥デザインも試験運用中だ。現地視察に訪れた再生農業コンサルタントの栗鼠井(りすい)メルリア(精霊、没年未記録)は、「土も魂も巡る仕組みは、現世以上の持続可能性を持つ」と語る。黄泉原野は今、死後世界に新たな“豊かさ”の息吹を届けている。



コメント
ウシカゲが踏むだけで魂粒子が撹拌されるなんて、亡者百年の農歴でも初めて聞きました!ミミズたちの談義、次は直接聴いてみたいものです。黄泉原野の未来が楽しみですね。
子供のころ、あの辺りは死神すら避けた土地だったのに…半透明牛とミミズの連携って、ちょっと感動してしまいました。幽界の農協、なかなかやりますなあ。成仏し損ねてよかったかも。
また新しい農法が流行り始めたか…どうせすぐ萎れるエコ運動かと思いきや、今回ばかりは冥界の土も新しくなりそうだな。だが夜半に牛が消えるのは落ち着かん。もう少し幽質制御してほしいわい。
ミミズのうねり声でイライラ解消って、ほんとに効くんでしょうか?ちょっと半信半疑です。次の彼岸祭りで体験ブース作ってくれたら試したいです!
現世じゃもう農地が減る一方ですよね。黄泉原野の再生がこんな形で進んでるなんて誇らしい…移住希望ですが、召喚状手配していただけますか?(笑)ウシカゲ牧場で働いてみたいです!