死後の町、朧坂通りの夜は今日も静かだ。しかし、路地裏の一角だけから淡い青光りが漏れる。老舗の天狗本舗商店街が、異界で初となる完全無人・レジレス店舗へと生まれ変わったのだ。伝統を重んじてきた地域に突如現れた最先端店舗に、幽霊町民たちの関心と困惑が交錯している。
目鼻も利くお馴染みの天狗たちが姿を消し、“魂認証”ゲートと浮遊型決済端末が棚の間を舞う。買い物客は自らの気配の微細な波動をかざすだけで、商品が即座に精算され、電子レシートはあの世専用SNS『ユグトーク』のアカウントに直送される仕組みだ。これは省人化運営を徹底する一方で、長年町を賑わせてきた“妖怪のおしゃべり”文化を一変させつつある。近隣住人である小豆洗いの井川鬼平さん(享年72)は「昔は商品以上に店主との立ち話が目当てだった。今は静かすぎて、カゴの中の小豆すら音を立てぬ」と肩を落とす。
一方、若い世代の幽怪たちには好評だ。都市開発局で働く霞狐クロハさん(29)は「昼休みにゾゾッと現れても目立たないし、怖がらせた数だけボーナスポイントが貯まるのは嬉しい」と無人店舗ならではのレジレス体験に満足げ。実際、販売記録を見ると、開店以来“浮遊菓子”や“光る長尺ねじりこんにゃく”など新規商品の売上は倍増した。
一方で、天狗本舗の運営会社・朧坂テックの広報担当である頬紅天狗タケナカさん(145)は、「我々天狗の誇りである風聞収集力を、新しい店舗DXにも生かす」と意気込む。今後は利用客の霊圧データを解析し、客層ごとに声だけの“疑似世間話AI”を開発予定だ。また、電子レシートの自動お焚き上げ機能や、購入履歴から最適なお化けレシピを提案するなど、省人化と温もりの両立を図るという。
SNS上では『昔の買い物も良かったが、深夜に人目を気にせず買えるのは助かる』(背の高い透け女、37)や、『レジが無いから無駄に緊張しない』(提灯お化け、21)といった好意的な意見も目立つ一方、「誰とも話さぬ買い物は魂が冷える」「レシートの幽体漏洩が怖い」など、旧来の妖怪層からは慎重論も聞かれる。業界アナリストの魂縁智哉氏は「今後は、霊的な温かみと最新技術の融合が異界商業発展の鍵」と指摘している。天狗本舗の新しい挑戦は、死後の町の買い物文化にどのような余波を及ぼすのだろうか。



コメント
天狗本舗が無人になるなんて、もう昔話の世界だな。子供の頃、あの天狗店主に「鼻伸ばし飴は一本だけよ」ってよく言われたものだけど…今じゃ誰にもたしなめられないのが少し寂しい。
魂認証は便利だけど、間違って隣の幽霊の分まで精算されそうで不安。あと、うちの目玉たちがレジ端末に映るの嫌がるんだよなぁ。便利もいいけど、昔みたいに店主と世間話しつつ買い物したいな。
初めてレジレス行ってみました!浮遊型決済端末が可愛いくて、お供え団子もつい多めに買っちゃった。並ぶ必要もなくてありがたいけど、確かに静かになりすぎて、店内で一人だとちょっと不意打ちっぽい空気感じます。
魂圧データ解析ね…いつか買い物の好みまで全部バレそうで怖いな(笑)。まあでも、夜中どこにも姿現さずに買い物できるのは便利だから、もう戻れない気がする。これも時代か。
人付き合いが苦手な私は無人の天狗本舗、大歓迎です!店主の目線に冷や汗かくこともなく、ひっそり光るこんにゃく買って帰れるの最高。疑似世間話AIも楽しみですが、やっぱりときどきは生きた会話も恋しくなるかも。