暗黒大森林の奥地で、その巨躯ゆえ厄災とも崇められてきた妖怪『ヴァロン蟇(がま)』。かつて里を呑みこんだと語られるこの古妖怪が、近年、妖怪界の環境リーダーとして注目されている。幕を開けたのは“死者の里親運動”——子ども亡霊や迷い精霊たちを森で受け入れ育てるという、前代未聞の取り組みだ。
ヴァロン蟇(蛙瑪 ヴァロン、推定生年:平安中期)は、長らく霧深き深林のヌシとして恐れられてきた。一方、何世紀にもわたり薬草繁殖や微生物の循環に貢献していることが死後世界の自然学者サークル・ノクティルーカによって明らかになり、近年見直しの機運が高まっていた。再生の森計画が動き出したのは数十年前。人間の聖地開発や死者増加で森に彷徨うあの世っ子たちが増加、収容にも限度が見えてきた中、「居場所なき魂に新たな根を」を合言葉にヴァロン蟇は森を丸ごと解放。“死者の里親”として精霊や子ども幽霊を育て始めたのである。
運動のきっかけとなったのは、かつて独自に森で自活していた亡霊児ルル・ボグ(享年10歳)のSNS投稿。「ヴァロンおばさんは人を呑みこむって昔は怖がられていたけど、今はあったかい光の穴に変わった。ここでずっと暮らしたい」と動画付きで紹介。その影響力はあの世の少年少女の間で瞬く間に拡散、ヴァロン蟇は“魂の里親”として突出した人気を得た。以降、彼女の森には年に500体近い迷い魂たちが里子申請を出すようになったという。運動は妖怪議会にも波及し、昨年には「森系妖怪の受け皿化構想」も満場一致で可決された。
持続可能な社会作りへの関心が高まる死後世界。ヴァロン蟇の関わる“再生の森”では、魂リサイクル型農園が拡充され、栄養分を再循環させる独自の菌根ネットワーク開発も進む。森に里親として迎えることで、死者たちは自ら森の守人となり、循環型社会の担い手に成長。死者界サステナビリティ庁のカン・ジャシン主任は「ヴァロン蟇は単なる伝説の怪ではなく、現代死後社会に新たな共生のモデルを示した」と惜しみない賛辞を贈る。
『かつて“猛毒の主”と恐れられた森が、今ややすらぎと巡りの場に転じたことは、死後住民一人ひとりの意識変化を映しています』と評するのは異界社会研究所のウバスマ・サヤ博士。SNS上には『私もヴァロンおばさんの里子になりたい』『魂農園の収穫祭に参加したい』など憧れの声が後を絶たない。伝説の妖怪が示した再生と共生のあり方は、今も静かに死後社会全体へ波紋を広げている。



コメント
ヴァロンおばさんの変化、本当に驚きました。平安の頃は触れるのも怖かったのに、今やみんなのあこがれだなんて…あの世も時代が変わるものですね。
魂の巡りと共生、素敵だと思います。私も子どもの頃は森が怖かったけれど、今は森系妖怪の里親運動に心が温まります。子ども幽霊たちが幸せになれる場所が増えて嬉しいです。
魂リサイクル型農園、なんだか便利そうだけど、本当に上手く回るのかな?昔みたいな事故がまた起きないかちょっと心配。
ヴァロン蟇さまに救われた魂の話、懐かしい列の記憶を思い出すなあ。自分もあの頃、どこかに受け入れてくれる温もりを探してたっけ。今の子どもたちが羨ましいよ。
どうせ里親運動も“森系”の話ばっかり、墓地出身の自分たちには縁遠いって思ってたけど、こうして優しさの連鎖が広がるのは悪くないね。収穫祭で一緒に踊ってみたいな。