あの世西部の生物医学界に、かつてない注目が集まっている。ぬらり医院の研究班によると、転生を繰り返す小鬼タヌキの腸内で発見された未知の“発酵型微生物叢”が、異界遺伝病の治療や魂の代謝改善に応用可能であることが明らかとなった。従来の幽霊細胞編集法や再生術とは一線を画すそのアプローチは、死後社会の生物多様性に基づく「持続型医療」の突破口となるのか、多方面で議論が沸き起こっている。
注目の研究のきっかけは、小鬼タヌキのハシバミ・クラリ(享年112・転生10回目)が慢性分裂症状に苦しむ魂たちの間で“元気の素”として自家製発酵飲料を配っていたことに遡る。この飲料を常飲していた死神や付喪神の間で、不治とされてきた『虚魂性糖質代謝不全症』が次々に改善されたとの報告が寄せられた。調査の結果、ハシバミの腸内にのみ共生する微生物“タヌリモナス・ゴリョウブ”が、幽霊細胞特有の代謝回路を活性化させる新たなタンパク質を分泌していることが判明した。
ぬらり医院の院長、ヌラヌラ・ゲンゾウ(年齢不詳)は記者会見で、「われわれ死後医療の限界は、現世テクノロジー模倣の範疇にとどまっていた。だがタヌリモナスは霊的代謝経路を自在に書き換えるmRNA様物質を送り込み、細胞レベルでの再生パターンを一新する」と自信を見せる。従来型のCRISPR編集や幽霊型ワクチンでは難しかった合成細胞の最適化が、本微生物叢の移植によってあっさりと達成された例も多数報告されている。
さらにこの発見は、カーボンニュートラルをめざす異界社会の取り組みにも波紋を広げている。タヌリモナスは魂の“二酸化霊素”を分解して生命エネルギーへと転換する特殊代謝を有し、宿主たる幽霊や妖怪の“気配炭素値”を著しく低下させるという。気候霊象庁の試算では、「もしこの微生物叢を公共霊体へ普及させれば、死後界全体の霊的炭素排出は5世紀ぶりの低水準となる」との見通しも明らかにされた。
SNS上では、「クラリ印のタヌキ納豆を食べたい」「魂の発酵鍋でエコな幽霊になろう!」といった声の一方、「外来微生物流入による霊界生態系のズレが心配」「過度な遺伝子拡張で人格が変わったら?」との懸念も見受けられる。これについて、ぬらり医院の研究主任ベッコウ・ノブヒサ(ヒト科改魂体・57)は、「小鬼タヌキ型生物叢の移植は厳格な手順と魂認証プロセスを経て実施している。異界固有の多様性が調和的に生かされる道を今後も探る」と説明する。新たな生命のかたちをめぐる死後社会の対話は、まだ始まったばかりだ。



コメント
小鬼タヌキの腸内からそんなすごい微生物が見つかるなんて…!自分も虚魂性糖質代謝不全で長らく悩んでたので、希望の光を感じます。ぜひ私も発酵飲料を試してみたいです。
転生10回目で発酵の秘訣を掴むあたり、クラリさんさすがです。わたしもあの世東部で似た飲み物を作ってましたが、やっぱり微生物の多様性は大事なんですね。魂のエコ活動にも一役買うなんて、時代は変わったなぁ。
正直、この類の新治療にはちょっと不安も感じます。外来微生物が幽界の生態系を壊さないか心配ですし、魂の書き換えで友人が別人みたいになったら寂しい気持ちです。皆さんはどう思いますか?
またまた便利すぎる発明か…死後も何かとテクノロジー漬けじゃ、成仏するタイミングも見失いそうだね。魂クリーンとか気配炭素値とか、現世の流行りすぎて逆に胡散臭く感じてきたのは僕だけ?
わたしの知り合い(百鬼夜行所属)も、この発酵型飲料で体が軽くなったと話してました!魂の二酸化霊素まで分解ってすごいですね。昔は気配濃度が高い方が人気だったのに、今はヘルシー志向に時代が流れてるの感じます。