冥界でも静かな空前の“おうち時間”ブームが広がっている。ことし上半期、霊都クロヤに位置する新霊団地「あのよし台」に暮らす幽霊や妖怪たちの間で、古典手芸と最新スマートホーム技術が入り混じる独自の文化現象が熱を帯びている。彼らのホームエンターテインメント最前線を取材した。
入棟28年目の自称・手芸魂主婦、千歳ヨクハさん(享年56)は、最近まとめた“推し魂ドール作品集”で団地住民の注目を浴びている。「この世界は寂しがり屋が多いので、推し魂ドールと名付けて身内や推しの幽霊を模してつくり、夜な夜な交流会で発表し合うんです」。先月のオンラインハンドクラフトライブでは、不滅糸を自家染色し、かつて好きだった黄泉アイドルの魂形を再現したという精巧なドールが話題を呼んだ。「推しの生き霊から届く不定期メッセージをポッドキャストで配信したら、視聴者が増えて驚いています」とヨクハさんは笑う。
こうした個人活動を盛り上げる背景には、団地全体のスマート化がある。管理組合の主導で導入された霊界専用スマートホーム『クモノスR-NET』は、部屋ごとに「記憶アロマ」の香りと音声、時には電子書籍のページ送りまで幽体タッチで操作できるという。昨秋からは共用スペースに電子香炉が設置され、住民の気分や体調(霊調)に合わせて香りが選ばれる。団地広報担当の鬼洵シュタロウさん(自称・中途転生組)は、「妖怪住民の方には泥炭苔アロマ、若い幽霊にはキャンディー霊香が人気。推し活用の即席神棚も電子制御でつくれます」と語る。
さらに人気を高めているのが、巡回型の団地内オンラインライブ。毎週金曜の夜には「推し魂応援ライブ」が開催され、昨今は地縛霊ラッパーや妖狐バンドの演奏に、各家のスマート・電子書籍リーダーで歌詞本や裏話コラムがリアルタイムで配信される。団地内掲示板の投書では、「この世界でも推しに課金できるのが幸せ」(浮遊霊/20代)、「電気の要らないラジオ型ポッドキャストで音楽や漫談を聞きながら、推し魂ドールの衣装づくりがはかどる」(妖怪主婦/100年以上生存)など、“新しいおうち推し活”の声があふれる。
魑魅魍魎クリエイターとしてSNSでも著名な幽霊アーティスト、土生カゲリさんは、「死後の世界の手芸は、現世より自由。制作中は自宅空間ごと香りと記憶を書き換えて、“今度こそ伝えられるはず”と推しへ念を送れる。異界独自の共創感がある」と分析する。実際、住民たちの間には“推し魂と共に生きる(逝きる)おうち時間”が自然と根付いている様子だ。
クロヤ新霊団地の動向は、あの世独自のライフスタイルを垣間見せながらも、生きていた頃にはなかった“わくわく”と“つながり”を住民同士にもたらしつつある。推し活と手芸の交差点として、これからの幽界おうちカルチャーの更なる発展が期待される。



コメント
推し魂ドールの交流会、去年成仏しかけたときにお世話になりました(笑)。まさかスマート香炉まで導入される時代が来るとは…冥界も進化してますね。
推し魂に課金できるなんて、現世のアイドル追っかけ時代を思い出して懐かしい気持ちになりました。幽霊になってからも推し活ができるのは本当にありがたいです!
泥炭苔アロマちょっと気になります。昔はモノノケ同士で香炉の煙を浴びてわいわいやってたのに、今は電子制御とは…隔世の感というやつですね。
団地のオンラインライブ、たまに霊電波の乱れで幻覚花火が舞い込むの可笑しくて好きです。推し魂ドールの衣装づくりは、幽界ならではの楽しみ方かもしれませんね!
私は正直、手芸には無関心でしたが、こうやって異界で新しい『つながり』が生まれるのをみると、なんだかうれしい気持ちになります。新霊団地もずいぶん賑やかになったものですね。