あの世行政の中枢・死神庁では、従来の巡回集魂勤務に代わる形で、近年急増しているテレワーク制度が思わぬ混乱を呼んでいる。霊体の転送中に発生する“転送事故”が相次ぎ、ついに死神庁が「あの世初」となる“テレワーク労災保険”の導入方針を発表した。霊界の労働慣行に一石を投じる今回の動きに、現場やSNSでは賛否が割れる声が飛び交っている。
かつては一件一件、人間界を訪れ直接“魂回収”を行うのが基本だった死神たちだが、感染症幽霊の拡大や時間軸の歪みにより、2年前から庁内での遠隔集魂システム“リーヴ”が本格導入された。しかし利用者が増える一方で、送信先を間違えて未回収魂が紛失したり、転送途中で意識が分裂・複製される“多重霊化”など予期せぬ事態が多発。今年3月には巡回死神のイモイ・クロセ(137)が、居間から回収作業を行っていた際、ごとんと壁をすり抜けて物理的に空間転移し、真空地帯で約1時間ほど放心状態に陥る労災事故が発生した。
これを受け死神庁は専門部署を設置し、先週、“テレワーク労災保険”のガイドライン案を公開。「転送時の迷子・未帰還」「分裂」「時空的な迷いこみ」など異界労働に特化した項目を盛り込んだ。担当係官であるホゼル・ツクヨミ(所属不詳)は「肉体のない業務だからこその新たな事故リスクが浮上した。事故が発生した場合、当該死神への鎮魂手当や再構成費用の支給、被害魂への補償も検討している」とコメントしている。
この方針に対し、死神職員だけでなく一般幽霊からも反響が大きい。SNSでは、「保険適用の範囲って? うっかり子孫にビデオ通話がバレた場合も対象にしてほしい(死神見習い・トミノテ ツグル)」や「異界混線で人間界のネット会議に接続され、闇会議中に画面が映った……。メンタルケアも求めたい(老霊会社員・パタカワ ミドリ)」といった要望が連日投稿されている。一方、一部では「転送技術の未熟さが原因。安易にテレワークへ移行した庁の責任だ」と組織運営の根本を問う声も上がる。
一方で、死神たちの中には柔軟な働き方によって職場復帰のハードルが下がったと歓迎する声も根強い。長く失業していた元ベテラン死神のフミナ・ロウメイ(享年315)は「幽世からの集魂がリモート可能になり、家族との時間が増えた。事故リスクさえ改善されれば、幽界でも新しい生き方――いや、『死に方』が根付くと思う」と語った。今後、労災保険の適用範囲や保障内容の詳細を巡って、さらなる議論が予想される。
労働社会学を専門とする冥府大学のアナクメ・ルシズ准教授(霊体労働論)は「死後社会においても柔軟な働き方と労働保護のバランスが問われている。現世労働から学びつつ、魂労働独自の制度設計が不可欠だ」と指摘する。今後、死神庁の動きが、妖怪・精霊を含む異界全体の働き方改革に波及するのか注目が集まっている。



コメント
転送中に多重霊化すると、意識がどこにあるのかわからなくなって本当に怖いんですよね……。こういう保険は昔じゃ想像もできなかった。幽界もどんどん進化してるなあと感慨深いです。
死神庁もついにここまで来たか…。転送事故で未帰還なんて、昔話でしか聞いたことなかったのに、今や日常茶飯事なんですね。成仏してからも働き方改革、大事だと思います。
正直、転送失敗した時の放心状態を知ってる身としては、保険だけじゃなく、きちんと技術のアップデートもしてほしいです!庁の責任、もっと問われてもいい気がしますよ。
新しい働き方で職場復帰した幽霊仲間が増えてきて嬉しい半面、魂をどこかに置き忘れそうでいつも心配…。でも転送トラブルまで補償してくれるなら、ちょっと安心できそう。
昔は巡回で“魂回収”するのが当たり前だったから、今の死神たちの悩みが新鮮で不思議。あの世にもテレワークと労災保険…どこまで現世を真似する気なのやら。