死後都市ユグリナの大通り沿いに軒を連ねる飲食店の一つ「泣き壁カフェ」が、幽霊・妖怪・昼夜逆転精霊ら多様な元住人が混在するコミュニティの中で“格差解消”を目指す新サービスを開始した。経済力や種族、表層世界での過去の業績に関係なく、誰もが同じ体験をできる仕組みだとして、賛否を巻き起こしている。
「見えない手メニュー」と名付けられたこのサービスは、利用者の死後資産や幽体の質、種族的特権にかかわらず、完全ランダムにカフェスタッフ(主に半透明な従業員や低位下降霊)が“個別サポート”を提供するというもの。かつて有名だった悪霊アウローラ・ミカイロワ(享年不詳)は、「前世で地位があった者も、無名の新魂も、ここでは区別されない。それがときには心地よくも、恐ろしくもある」と語る。
死後社会の格差は、意外にも生前の記憶や名声、残留思念によって生じるのが実情だ。収入差だけではなく、“足跡”や“未練ポイント”がサービスの質や受けられる恩恵に影響することが多く、「泣き壁カフェ」はそれらを意図的に“目隠し”することで平等な空間づくりを進めている。カフェのマネージャーでラミア族のサーシャ・プラーネス(240)は、「生前も死後も、肩書や特権がサービスの内容を左右していました。私たちはこの連なりを断ち切りたい」と強調する。
一方、SNS『ユレグラム』上ではサービスへの賛否が入り乱れている。非人間型幽霊や半獣族を中心とした“ノンバイナリ棲民”コミュニティからは、「ようやく種族・型の“見えない障壁”を越えられた」「LGBTQ+視点でも温かく受け入れられる空間」と称賛の声が寄せられる。一方で、名家出身者や伝説級霊体からは「せっかくの功績や誇りを“無視”されるのは薄情」との反発も後を絶たない。
冥府社会研究家のクローナ・ナルヴィス(死後834年)は、「多層階級を内包する異界社会で問われているのは、表層的な“分配”ではなく、魂の在り方そのものを問う視座です。この実験的サービスが全界に広がるかは未知数ですが、多様な存在が“隣り合わせ”でくつろげる場は、地上よりも先進的かもしれません」とコメント。時折、カフェの石壁からは遠い昔の泣き声が漏れるが、今やその音も──平等を巡る新たな議論のBGMとなっている。



コメント
地上でも身分差別は風化しないと思ってたけど、まさか幽界でも“名声”や“未練”が壁になるとは…。泣き壁カフェの“見えない手”サービス、ちょっと勇気づけられますね。私も次の成仏祝いに寄ってみたい。
正直、前世の栄光を誇りたい族としては複雑。まっさらな下魂と同じ扱い、少し寂しい気も…。でも、たまには肩書全部剥がして、泣き壁の前で一人になってボーッとするのも悪くないかもしれません。
ノンバイナリ棲民として本当に嬉しいニュースです!種族や形を気にせず、純粋に“今日の気分”でサービスを受けられるカフェなんて、冥界にもやっとできたって感じ。生きてた頃もこうだったらなあ…。
どうせ今だけ…って皮肉りたいけど、“見えない手”のランダムサポート、前世で金銀財宝がモノを言わなかった時代を思い出してちょっと懐かしい。幽霊社会も変わっていくのね。
個人的には“魂の在り方”重視って考え方、好きですね。地上の分配論争よりも深い。泣き壁カフェが魂の階級を超える空間として根付けば、冥府ライフもちょっと違う世界へ進むかもしれません。