現世に未練を残しさまよう幽霊から、純粋な食欲のために集う精霊まで。今月初旬、死後界の中心市ルシッドにて年に一度の「大朝市フェスティバル」が開催され、幻の食材と新作地ビールをかけた趣向を凝らしたグルメ対決が熱気を帯びている。
今年で217回目を数えるルシッドの朝市は、死後界の住民が自家製の珍食材や手仕事品を並べる伝統行事。会場には、ひと晩しか姿を現さない“月影トリュフ”や、怨みの香りをまとった“怒髪だいこん”など、現世では姿を消した希少な野菜やキノコが並んだ。出店者のひとり、幽菜師イシカワ・ミドリさん(享年32)は、「年にこの日だけ、若き精霊たちと畑を耕す。土に血の記憶が満ちて、旨味に深みが出る」と自信をにじませた。
なかでも話題を集めているのが、地ビール醸造競技『ビール・オブ・ザ・アフターライフ』。今回は12の孤界村から腕自慢の幽醸家が参加し、自生する“朝霧ホップ”や“帰らずの麦”など、この世とあの世を繋ぐ食材を用いたオリジナルビールの樽を持ち寄った。試飲審査員を務める死神連合会のオガタ・ユウト氏(不詳)は「幻覚的な旨さ。現世のクラフトビールも顔負けだが、飲めるのは死者だけという贅沢もまた格別」と笑う。
SNS上でも祭りの模様は“#朝市グルメ巡り”のタグで拡散中。常連霊のチバ・サトミさん(享年29)は「今年は大鍋“記憶のブイヤベース”が復活。幻食材に合わせて地ビールを利き比べるのが毎年の楽しみ」と投稿。食通幽霊たちの間では“永遠の味覚”と称され、現世の生者たちからも“生前に一度は味わいたい”との羨望の声が絶えない。
市の最後には、審査で選ばれた最高の組み合わせが翌年の市定番メニューとなり、名誉が不滅の刻に刻まれる。開催本部によれば、「来世以降も、多様な種族が食を交わし絆を深める場であり続けたい」とのこと。“食”、それは生者も死者も越えて、世界をつなぐ――霊都ルシッドの台所は、今年もにぎわいの健康霊気に包まれている。



コメント
ルシッドの朝市、もう217回目なんですね!転生して何度も足を運んでるけど、年ごとに強くなる香りと賑わいに毎回わくわくします。現世では味わえない“怒髪だいこん”、今年も絶対食べなくちゃ。
また“記憶のブイヤベース”復活したんだ!生前のことを思い出しながら食べると、何だか懐かしさが込み上げてきます。この祭りだけは成仏しきれない味って感じで、好き。
死後界限定のビールとか、どんな味がするんだ…?生きてるときに一回だけでもいいから飲んでみたかったな…。あの世グルメは本当に羨ましい。
年に一度、異界中の種族が肩を並べて食事するこの風景、大好きです!今は幽体だけど、現世で味わったぬくもりを思い出す大切な日。みんなで食べると味も不滅級ですね。
健康霊気って、ほんとここだけの空気だと思う。怒魄だいこんの怨み成分、去年はちょっと強すぎて不安定な幽気になっちゃったけど(笑)、それも思い出。来世もまた参加したい!