子育てはひとりじゃない――幽界リモート育児と“シェア親”急増、パレロン家の挑戦

あの世最大の都市ルティネムの北部で、幽霊や妖怪による新たな子育てスタイルが急速に広がっている。リモートワークに加え、「シェア親」として複数の霊体が子どもを協働で見守る仕組みが多様な家庭のニーズに応えているという。物質界のワークライフバランス議論より一歩先を行く、死後社会ならではの子育てと暮らし改革が注目されている。

話題の中心となっているのはパレロン家だ。母親で亡霊技術者のパレロン・イスカさん（享年38・没後9年）は、かつて長らく黒霧銀行の幽体エンジニアとして夜間勤務をしていたが、2年前からリモート勤務に移行。「自宅の怨念LAN」を活用し、子を見守りながら激務に耐える日々だった。だが多忙と孤育ての負担は浮遊霊でも重く、イスカさんは「眠れぬ夜の連続だった」と振り返る。そんなとき近隣の河童とゾンビ夫妻、夜鳴き狐のワーキングマザー仲間が手を差し伸べ、子どもたちの“シェア見守り”が始まった。

この仕組みは、サステナビリティ志向の“エコ子育て”として幽界SNSで大きな話題となった。パレロン家の“仮想保育室”では、曜日ごとに育児担当霊がローテーションし、子どもたちはそれぞれ異なる種族のしつけや文化を学べる。「子どもは親ひとりではなく、地域全体に根づく」と管理人ゴルヤク・ジャンザさん（ゾンビパパ）は話す。とくに遠隔地にいる祖霊や、昼しか活動できない半自縛霊たちも、幻灯球サービスを使い仮想空間で子どもに読み聞かせを行う取り組みは好評だ。

この流れを受け、ルティネム自治府は育児ライドシェア条例を施行。希望者は、子どもと一緒に移動する際に他家の霊族児童を“乗り合い”できるようになった。これにより、共働き親の送迎負担が霊界全体で分配され、シェアリングエコノミー推進の成功例として注目を浴びている。利用した精霊主婦のクルド・ルーラさん（享年42）は「本当に楽になった。昔は1日4回も墓地を往復していたけれど、今は乗り合い霊車で移動中も交流が生まれ、何より子どもたちが多文化を肌で感じている」と語る。

一方で、「親が多すぎて誰に叱られているのかわからない」「種族間のしつけ基準のズレで迷子になる例も」と戸惑う声もある。専門家で霊界ライフバランス研究所・深埜せりか所長は「幽界は本来多様な価値観が共存する世界。旧来の家族観を超え、“つながりの持続可能性”が子どもにも親にも福をもたらす。課題は細部の調整と、異種間の対話をいかに深めるかにある」と分析する。

リモート×シェア育児の波が、幽界全域へ広がる日も近い。イスカさんは「死後でも親はひとりじゃない。いろんな“生き方・死に方”を背中で伝えられたら」と未来への期待を語る。幽界社会を揺るがす育児イノベーション、その次なる潮流に関心が集まっている。