深い霧こそが幽界の象徴──そんな価値観に揺らぎが生まれている。近年、死後の世界「幽界」でも気候が大きく変動し、伝統的な霧が激減。これを受けて幽界気象庁は、霧の再循環を目指す大規模な“霧リサイクル推進運動”を始動した。住民や妖怪らの生活、仕事、生態系、ひいては異界経済との関わりについて、現地で取材した。
幽界中央都市にある気象庁本部では、昨年から続く“異常晴天”問題が議論を呼んでいた。例年なら視界10メートル以下の濃霧が当たり前の時期にも、ここ数年は“昼夜の区別もつく”ほどの快晴が続き、非実体労働者組合「ミストワーカーズ」からは『職場が丸見えで魂に負担』『陽射しで透け方にムラ』といった苦情が相次いだ。調査主任の霧山ソウイチ(490・幽霊)は「伝統的な墓地性霧や湧き水霧が温暖化や地下環境の変化で減りはじめている。従来の“霧頼みによる省エネ”も通用しなくなった」と現状を語る。
今回の新政策では、特殊な“霧回収装置”を公共スペースに設置。朝霧や墓地由来のもやを回収・精製・強化し、夜間や需要の多いスペースへ“エコ霧”として再放出する仕組みだ。霧山主任は「幽霊だけでなく、半透明妖怪や死神たちの移動・活動時間を安定化できる。さらには霧の成分を選別し、魂の成長や既存の霊的生態系にも配慮したい」と意気込む。自治体単位で“霧クレジット”の売買も可能になり、一部では新たなあの世グリーン経済の呼び水になるとの見方もある。
市民にも協力の輪が広がる。人気SNS『ナナシノログ』では、“私は朝霧を持ち帰った”チャレンジが拡散中。死後新人OLの橋本ツバサ(享年29)は「通勤アプリと連携して、会社のロッカーに霧をためるのがマイブーム。今まで上司に“半透明不足”を指摘されてきましたが、霧強化で存在感アップしていると実感します」と語る。一方、霧を餌とする低級浮遊霊層や、ミスト農園で働くケサランパサラン族らからは「人為的な霧は“味”や“手ざわり”が違う」と懸念する声も出ている。
死後の世界でも、気候変動と生物多様性への配慮、エコロジー意識の高まりは深刻な課題として共有されつつある。幽界気象庁は今後、“霧の生合成”分野や、既存の“魂排気”との共存策にも乗り出す方針だ。橋本ツバサは「エコな霧を使えば、生前よりもサステナブルな暮らし。死後の世界でも挑戦と学びは続きます」と前向きに語る。冥界のエコ新時代、その先にどんな景色が広がるのか、注目が集まっている。



コメント
昔は朝な夕なに墓地が霧で包まれてて、ひんやり落ち着いたもんだったけど、最近の晴天続きには本当に驚いています。霧リサイクルの発想は新しいし、エコも大事だけど、昔ながらの自然霧の風情も残してほしいなぁ。
確かに快晴が続くと、半透明族には生きづらい(いや死にづらい?)ですよね。この取り組みがあれば、仕事中に魂が透けすぎて晒されなくて済むかも。朝霧チャレンジ、私も明日からやってみます!
まだ人為的霧は体験してませんが、ケサランパサラン友達は『養殖ものはやっぱり食感が違う』って言ってました。エコもいいけど、慣れ親しんだあの“もやもや感”がちゃんと再現されるか心配です。
地上でもエコだSDGsだって騒がしかったけど、結局みんなあの世でも同じことに悩むんだなぁと笑ってしまいました。我々が成仏する前に霧そのものが成仏しそう…まあ、時代の流れですかね。
私は死後新人なので、霧に包まれる暮らしに最初は戸惑ったけど、今では晴天続きの街が逆に落ち着かなくて…。エコな霧でみんなが穏やかに過ごせるなら素敵。他界にも緑の風が吹きますように。