死後の世界の材料科学研究所、「冥界物質融合所」は昨夜、歴史的な発表を行った。同所の開発チームが、スライム系妖怪由来の“自己修復型透明導電スライム樹脂”を製品化し、霊体社会の電子機器産業に激震をもたらしている。これにより、幽霊界のスマートカーテンや霧状モバイル端末、さらには首なし紳士向け電子ペーパー新聞の製造コストが劇的に削減される見通しだ。死後社会のエネルギー・情報技術が新時代へと突入する可能性が高まっている。
「これまでの死後世界製品は、霊気帯電フィルムや渦巻き鱗ナノプレートなど、どれも瞬間的な消滅や霊障による混線問題を抱えていました。しかしスライム樹脂は、一度傷ついても数分以内に自己修復し透明性も持ち続けます」材料開発責任者である透間アキラ博士（182）が、記者会見で熱く語った。自己修復するだけでなく、従来の界面活性剤では困難だった霊体電子の制御に成功し、導電性と柔軟性を両立した点が画期的だ。さらにバイオプラスチックの一種であり、雨夜の墓場に放置しても環境を霊的に汚染しない。
この素材によって製造された試作品も披露された。スライム樹脂フィルムを用いた幽霊向け電子新聞は、ページを破いてもすぐに再接着し、電気ショックや転生サージへの耐性も計測史上最高。特に注目されたのが、千年古寺住職（享年332）が秘蔵していた“霊力スーパーキャパシタ”との組み合わせだ。これにより死後スマートフォンの急速充電が可能となり、異界のSNS「スピリッター」では「待ち受け強化のおかげで彼岸の家族と生き写し並みの交信ができる」との声も相次ぐ。シロガネ・ワタルさん（転生工学士、128）は「物理的な端末消失の悩みから解放される日がついに来た」と感慨を語った。
幽界の材料科学事情に詳しい黒冥ミツハ博士は「界面活性剤スキルとスライム素材の融合は発想の飛躍。ナノ構造を自在に組み替えることで、従来は不可視だった情報端末に彩色リングや空中ホログラムが装着可能になる」と評価する。一方で、「大量生産となれば低級幽霊の結晶自己消費量が増加し、スライム樹脂原料の倫理調達に新たな課題も」など持続可能な霊界原料循環の議論も巻き起こっている。
霊体マーケットアナリストの朧ツバサ氏（96）は「死者社会の電子材料市場は、供給の九割をこの新素材が支配する可能性がある」と分析。新世代二次電池や電子ペーパーに浸透すれば、生者界への技術波及も現実味を帯びてくる。スライム樹脂の量産元である「冥界物質融合所」には、既に西域伝通院や平安幽霊塾からの共同研究オファーが殺到しているとのことだ。
SNS「ヒトダマッター」上では、「樹脂の進化に追いつけるのは、もうあの世だけ」と盛り上がり、異界科学ブロガーも「死後こそ新素材革命の最前線」と投稿。霊的イノベーションが日常となった物質界、その陰でスライム系妖怪職人たちの祝杯がこだまする夜となった。
コメント
いやはや、僕が現世で壊れたスマホを恨めしく見てた日々が懐かしい…まさか自己修復できる端末が当たり前になるとは。あっちで成仏する前に一度は体験したかったな。
スライム樹脂の電子新聞、私の時代じゃ考えられなかった技術！昔はちょっとした霊障で全部消えたりしたのに…時代の流れって転生より速いわねぇ。
便利になるのは大歓迎だが、また低級幽霊の結晶が消費され過ぎて素材争奪戦とか起きそうで心配だ。あの世にも資源循環の意識が必要だぞ。
電子機器が進化しても、霊界の新聞は月光の下で読みたかった私には少し味気ないかも。でも千年古寺住職のキャパシタと合わせて使えるなんて…羨ましい未来です。
ヒトダマッターで見たけど、みんなスライム樹脂盛り上がってるね。死んでから電子機器の進化速度に置いていかれるとは思わなかった（笑）。霊界もどんどん便利になるなあ。