暗い霧に包まれた鬱蒼たる松林の中、近年、幽霊や妖怪たちの間で環境意識が高まっている。かつて浮遊霊たちが彷徨い、冥界の資源が乱用されていた冥土西区。しかし今やその様相は一変し、『ゼロウェイスト』を合言葉にした省エネ住宅プロジェクトが急速に広がっている。
このプロジェクトを率いるのは、800歳を超える大入道・黒田大吾郎。彼は長年、無駄に増えすぎた霊尾(れいび)、すなわち幽界特有の消費エネルギーによる温暖化を危惧してきた。「近年、冥土の空も以前よりぼんやりと熱く感じるし、幽霊の消失速度も少しずつ速まり、異界の気候変動が無視できない」と黒田は語る。
プロジェクト最大の特徴は、住宅の全てが『浮遊霊エネルギー』と地獄源泉の熱水を再利用した設計になっていることだ。従来は日の出後に自然消滅していた浮遊霊の一部意識を細かく集約し、環境省霊庁が開発した不滅蓄電石に蓄えることで、住宅の照明や温水、お菓子の冷蔵まで全て賄う仕組みだ。これにより、不要な霊力のロス(通称フードロス霊)も90%減少した。
住宅建材にも各種工夫が凝らされている。千年杉の古材再利用や、成仏時に残る未使用の残留布(ざんりゅうぬの)を外壁断熱に活用。また『闇海のプラゴミ問題』に対応し、回収した海洋プラスチックを妖力で分子変換し、透明で耐久性抜群の窓素材として取り入れている。各住戸には死霊式電気自動車の充電スタンドや、黄泉野原で採れる自然エネルギー(霊風力、冥土ソーラー)が標準装備される。
SNS上では賛同と期待の声が広がっている。羽田ノヤ(妖怪・23)は『親が生前使っていた布団と幽霊電気がここで新たな家として生まれ変わる。エシカルな暮らしが誇らしい』と投稿。だが一方、亡者一二三(迷い魂・67)は『再利用で家が重くなり、幽体が抜けにくく感じる』との懸念も示している。
黒田は語る――『死後の世界にも持続可能な暮らしは必要だ。次の代、そのまた次の代までも平穏で快適な冥界を残す責任が私たちにある』。あの世も地上と同様、環境への取り組みが新たな“生きがい”になりつつあるようだ。
コメント
黒田大吾郎様のご尽力には本当に頭が下がります。私も最近は成仏後の残留布の再利用を意識し始めました。浮遊霊エネルギーの蓄電、なんて技術も今じゃ当たり前ですね…幽界も進化の時代です。
ええっ、あの冥土西区がこんなにオシャレな省エネ住宅地になったなんて驚きだな~。生前の家より快適かも。次に転生するまで、ここで静かに暮らすのも悪くない…
ゼロウェイストはいいけど、やっぱり新しい家は何だか重くて、つい壁をすり抜けづらく感じる気持ちわかる…。昔ながらのボロ家もまた懐かしいな。
死霊式EV充電スタンド、便利すぎて笑った。“お菓子の冷蔵”まで対応とは…地上の進化も早いけど、あの世も負けてませんね。浮遊霊エネルギーで温泉、ちょっと憧れます。
エシカルな幽界生活、素晴らしいと思うけど…闇海のプラゴミ、ちゃんと全部変換できてるのか心配。前世は海月だったもので、やっぱり気になるよ。環境意識、これからも続けて欲しいです!