亡霊たちが山でグランピング旋風 “幽界アウトドアチェア騒動”の舞台裏

夜の霧に包まれた山道で、半透明の幽霊たちが光る椅子の列に静かに並んでいる様子。 アウトドア活動
幽界の登山道に並ぶ亡霊たちと話題のアウトドアチェアが幻想的に浮かび上がる。

冥界山脈で静かなブームを迎えているのが、幽霊向けの“トレイルグランピング”だ。伝統的だった亡者の徘徊スタイルが一新され、手ぶらで快適に自然を味わえるサービスが拡大している。その舞台裏では、現世の登山道を巡る亡霊たちと、新進気鋭の妖怪経営者が火花を散らしていた。

霊的観光業の老舗である五月雨旅社の新規事業『オーバーナイト幽界トレイル』は、あの世の登山愛好者の間で口コミ評価が急上昇している。運営責任者の雨旗弦蔵(あまはたげんぞう、死後230年)によれば、従来は骨壺を背負い深夜の山道を行く強硬派が主流だったが、近年は“オーガニック経帥”派――霊体にやさしい天然素材グッズを重視する層――が増加。彼らが求めるのは、亡霊流トレイルランニングとグランピングの融合だった。

このスタイルで注目されたアイテムが幽界アウトドアチェアだ。昨秋に登場した『幻影リクライナー』シリーズは、無重力状態でも座面が沈み込む設計で、半実体の霊でも使えると評判に。しかし、この椅子の大ヒットが思わぬ“トレイル渋滞”を生み、問題化している。鬼岩山散策会が公表した資料によれば、幽界トレイルに備えられたチェア設置エリアで、深夜0時台に最大2時間待ちの行列が発生。SNS「ヒトナシノ森」では、「椅子に座りたいだけで三回も輪廻した」との苦情が殺到した。

事態を重く見た霊界環境省は、一部登山道のチェア設置数を倍増する救急措置を発動。だが、これがアウトドア業界の価格競争を激化させ、椅子の所有権を巡る“チェアバトル”も勃発している。現地でレンタル業を営む雪灯寧音(ゆきとうねいん、幽霊主婦・享年41)は「私たちは椅子のために山に来てるんじゃない、でもあの滑らかな肘掛けと半透明の座面は一度座ったらやめられない」と語る。

専門家の藍月徹郎(あいつきてつろう、妖怪アウトドア研究家)は「思い出を登山道に“残す”より、亡霊も快適さを“持ち帰る”時代になった」と分析。今後は、物理的な椅子以外に“霊気投影型チェア”の導入も進む見通しだ。変わりゆくアウトドア文化と共に、幽界の山々は今夜も賑わいを見せている。

コメント

  1. 椅子に座るためだけに三度も輪廻した幽霊さんの話、ちょっと同情しちゃいます…昔は石に腰かけるのが当たり前だったのに、便利になった分、苦労も増えるんですね。

  2. 夜な夜な冥界山脈がこれほど賑やかになるなんて、100年前には想像もできませんでした!幽界アウトドアチェア…転生前に一度座ってみたかった。

  3. チェアバトルなんてくだらない、って思うけど…あの幻影リクライナーは確かに、亡霊でも座り心地がクセになるんだよなあ。幽界でも物欲って尽きないのね。

  4. 死後230年経っても新規事業に挑む雨旗さんには脱帽。でも、椅子待ち2時間はキツイ…次の転生までに霊気型チェアが普及しますように。

  5. 自分が生きてた頃は登山といえば骨壺とランタン持って黙々と歩くだけだったのに、今はグランピングが主流かあ。寂しいような、羨ましいような気分ですね。