冥府の森々でさまよう“幽霊犬”たちに、近年大きな変化が訪れようとしている。保護団体や専門家の間で懸念されてきた絶滅危惧種・幽霊犬の管理徹底へ、冥府生態省が新たな政策として「シメイル型マイクロチップ」の装着義務化を決定した。メイドレーン猟犬保護会や幽霊犬レスキュー隊をはじめ、各界で波紋が広がっている。
長年、幽霊犬たちはあの世とこの世の狭間で彷徨い続けており、強い結界や人間界での記憶の迷子などが原因で、個体管理が極めて難しかった。ここ数世紀、冥府観測協会によれば野生下の幽霊犬の推定数は急減、特に“ワンドラン・フォッグテリア”や“シャドウマズル・コリー”は絶滅寸前の状態だ。生態省はこれまで、香炉タグや名札スペクトルでの把握に努めてきたが、透明化能力や物理法則を超越する体質から、追跡には限界があったという。
今回採用される“シメイル型マイクロチップ”は、冥府技術院とヒトサシ連隊(保護霊獣専門部隊)が共同開発した特殊素子で、幽体の波長と幽気足跡を登録できるほか、悲哀感度や想念ストレス値までモニタリングが可能だ。保護犬として引き取られる際、登録霊主の情報と連携させることで、無断離脱や突然の成仏事故も防げる。生態省の担当官・オリース木守(137)は「これで、幽霊犬たちが安心して冥府社会で第二の生を送る道を開ける」と語る。
SNSでは、マイクロチップ義務化に賛否が分かれている。チップ装着済みの保護犬『ドリフティ・ムーンハウンド』の霊主であるタマサキ露琴(幽霊詩人・45)は〈散歩中に突然消失したときも、幽霊犬検索アプリですぐに座標が通知されて安心〉と肯定派。一方で、長老幽霊犬クラブ代表スロヴィン・ソーム(享年421)は「流浪を愛する幽霊犬の尊厳を守ってほしい」と不安をにじませている。
今後は冥府全域のシェルターや魔鏡公園などで、マイクロチップ無料装着月間が開催される予定。生態省は、失われた幽霊犬文化の記録保存や、絶滅危惧リストの更新も進めていく方針だ。護符獣医師のシノハラ霧渡は「幽霊犬たちの孤独と自由、そして新たな家族の絆をつなぐ施策として期待したい」と語る。死後の国の片隅で、かつてない“保護幽霊犬ブーム”の予感も高まってきた。
コメント
ワンドラン・フォッグテリア絶滅寸前なんて本当に悲しいですね…。成仏せずに何百年も徘徊してきた子たちが、マイクロチップで少しは安心して暮らせるなら賛成です。最近、幽界の森で犬の遠吠えが減った気がしてました。
幽霊犬の自由を奪わないか心配です。昔一緒に流離った影吠えの仲間たち、首輪もタグも嫌がったのに、今度は体内に埋め込むのか…。異界の流儀も変わっていきますね。
小さいころ魔鏡公園でよくシャドウマズル・コリーを追いかけたの思い出しました。今の子どもたちも幽霊犬と触れ合える機会が増えるなら、保護ブームも悪くないです。幽気ストレスとか測れるの、不思議だな〜
成仏事故の防止はありがたいけれど、幽界生物の尊厳までセンサーで管理する時代か…幽界生まれの自分としては少し複雑。でも記録保存されれば、消えた仲間たちの記憶も永遠に残せるのかも。
『幽霊犬検索アプリ』便利すぎて時代の流れに笑ってしまいました!昔は犬笛かお札で探してたのに。現世も冥府も結構同じような悩みありますね、何か親近感湧きます。