異界最大級と謳われる「幽界アートナイト」が今年、異界メタバース空間クロスシフトホールで初開催され、幽霊画家たちの即興ライブペインティングや、化け物コスプレパレード、精霊監修の映像インスタレーションなどが夜通し繰り広げられた。物理的な体を持たない死者や妖怪たちも、仮想空間で思い思いの姿となって集い、未曽有の盛り上がりを見せている。
主催は幽界美術家連盟の会長、ゴーストリー・ユキエ氏(享年不詳)。現世と異界の行き来が容易となった昨今、従来の『墓場ギャラリー巡り』だけでなく、バーチャル空間の特性を生かした体験型イベントへの要望が高まっていた。今年は“実体を持たぬものの創造力”をテーマに掲げ、過去最多となる8000体以上がリアルタイムでログイン。アバター機能を駆使し、幽体離脱した姿や封印を解除した姿など、現実世界ではお目にかかれない変身がいたる所で見られた。
戦国時代を代表する足軽亡霊アーティスト、平坂冥作(560没)は、今回初めて自らの最期の瞬間を題材にスクラッチ技法のライブペインティングを披露。「幽界の大気は下界よりも滲みやすいが、メタバースだと逆に定着しづらい。“あの世ならでは”の質感が出せて面白い」と語る。鑑賞した雪女の学生、山葵ユリコ(19)は「伝説の画家の筆致が目の前で再現されるなんて異形冥利に尽きる」と興奮を隠さない。一方、幽霊子供のコスプレイヤー達からは「使い魔として飼っていた火の玉型アバターがバグを起こして暴走した」とSNSで話題となり、運営が夜明け前まで対処に追われる一幕もあった。
毎年恒例の怪談上映会も、今年は一段と異彩を放った。映像作家・灯川マヨイ(没年帳簿紛失)による全方位型ホラーインスタレーション『永遠回帰の階段』では、観客自身が階段を登るアバターとなり、過去の生前映像に突如自身が映り込む仕掛けに「今もなお自分がどこにいるのかわからない」「生まれて初めて“現世の記憶”が蒸発した体験ができた」といったレビューが殺到。死後社会ならではの“記憶の曖昧さ”と“多重存在”がイベント後の議論を一気に加速させている。
今年は初の試みとして“墓標エリア・インタラクティブゾーン”も設けられた。来場者は、自身で用意したマイ墓標(アバター用小物)を登録し、他参加者との間で交換や供養儀式体験を行うことで、物語や過去の職業・悔いなどを匿名で分かち合った。「死後社会でも“個”の消失や誤認は課題。メタバース上なら“顔のないまま誇れる名”を競い合える」と語る主催運営チーム。次回開催に向けて、現世とあの世の垣根をポップカルチャーでつなぐ取り組みは、さらに広がりそうだ。
コメント
何百年も墓場ギャラリー派でしたが、ついに私もアバター初体験しました!実体なくてもペンが持てるメタバース、まさにあの世の進化感じます。次は自分の昔の姿で参加してみたいな。
平坂冥作殿のライブは感動通り越して憑依レベルでした。成仏しかけた自分が思わず取り憑き直したくなりましたよ。痛みも思い出も、スクラッチで甦るのが幽界流だな。
火の玉アバター暴走、私の周りでも話題でした!最近の子ども幽霊たち、ハイテクすぎて私たち百年前の亡者はついていけません(笑)でも賑やかで羨ましい限りです。
“永遠回帰の階段”体験したけど、自分の記憶が一瞬消えた感覚、初めてだった。死後もまだ未知の感覚があるって最高ですね。私もそろそろ転生せず、芸術巡り極めようかなと思いました。
墓標インタラクティブゾーン面白そうだけど、匿名で悔い暴露は少し怖い気も。私の古い転生名、どこかで見られちゃったかな?でも確かに、顔のない誇りもこの世界ならではですね。