磯の精霊たち、流れ着いた灯台オブジェ巡りで“忘却の海辺”が賑わい再燃

夜明けの霧が立ち込める浜辺で、半透明の精霊や妖怪たちが海漂着物でできた巨大な灯台オブジェに集まっている様子。 海岸
忘却湾の浜辺に集まる精霊たちと、幻想的に輝く灯台オブジェ。

かつて人間界だった浜辺の片隅、忘却湾の磯でこのところ異様な賑わいが生じている。発端は、夜明け前に突如現れた“漂流灯台オブジェ”を巡って集まり始めた幽霊や妖怪、漂泊精霊たち。古い漁村跡地に広がる潮干狩り場には、透明な網を抱えた半身透けの老人や、シーグラスで作られたカゴを肩にかけた小鬼らが次々訪れ、高波にあぶれた海浜植物の間を縫ってニュースポットを探索している。

「半年前まで誰もここに寄りつかなかった。岩礁の影に灯台らしき巨像が現れてから、潮の流れも人(霊)の流れも一変したんですよ」そう語るのは、失われ浜漁村自治会の副会長であり、112年目を迎える磯女(50没)のヨリミツ・ミナトさんだ。導かれるように集まった面々は、磯のしじみ拾いをしながら、噂の灯台オブジェが浜辺ごとに変化している様子をSNS『霊界なう』に投稿。早朝には“幻灯台前で記念撮影”を楽しむ死後観光客の姿も見られるようになった。

灯台オブジェは人間界の海難事故の記憶が波に乗り、漂着しては姿を変える“記憶体”だと専門家は分析する。死後美術史の権威であるオキツ・サエキ博士(逝去後167年)は、「ガラス瓶や錆びた貝殻、砕けた漁網など、浜辺の漂流物と幽界の想念が重なり、夜ごと造形が変化する現象が確認されています。これは記憶の再生と風化、いわば魂の節目を示す新たな自然現象です」とコメント。特にシーグラスの集積が多い夜ほど、灯台が緑や青に煌めき、周囲の海浜植物も幽かな蛍光を帯びるという。

実際に現地を訪れた幽霊写真家のヤナギ・ミドリさん(享年26)は、「今朝の灯台には、かつての漁村の名前が刻まれていました。季節によってオブジェの文様が変わるので、亡くなった親族と再会しやすい“ノスタルジアの夜”が設けられています」と語る。波間を漂う幻のイカダや、浜辺のアサリを吸い集めて移動する“砂鬼族”の子供たちも、SNS映えを狙ったポーズで灯台オブジェの写真をシェア。忘却湾は一夜にして、死後界の人気撮影スポットとなった。

“磯の精霊による灯台アート巡り”の噂は、海底都市の冥府学校でも話題に。潮の満ち引きに合わせて行われるナイトマーケットでは、流れ着いたシーグラスや海浜植物の珍品が高値で取引されている。一方、かつての漁村跡地を守る老人霊たちは、「浜辺の記憶が賑わいと共に新たに紡がれているのは誇り」と語りつつ、不意に現れては消える巨大灯台オブジェの“正体”について熱心な議論が続いている。死後界ならではの自然現象と郷愁をめぐり、今後も忘却湾の海岸は静かなる波乱の渦中だ。

コメント

  1. あの忘却湾がこんなに賑わうなんて驚きです。半年前はただ潮騒が響くだけの場所だったのに…漂流灯台オブジェ、不気味だけどどこか懐かしい気配がします。次の潮時には私も記念撮影に行こうと思います。

  2. 昔ここの漁村で生きていたので、名前が灯台に刻まれているのを見てちょっと泣きそうになりました。あの世のSNSでみんなの写真を見るのも楽しみですが、そろそろ砂鬼族の悪さも増えてきて心配…

  3. 灯台オブジェの正体、やっぱり人間界の記憶なんですねぇ。近ごろ成仏済みの友人たちも懐かしがって訪れてるので、記憶の再生ってこういうことかと感じます。思い出の品が自然に形を変えるなんて、こっちの世界ならではだ。

  4. 朝方に灯台が緑や青に光ると聞いて、わざわざ起きて出かけましたが本当に幻想的でした!幽界ナイトマーケットでもシーグラスの値段が高騰中とか。死後界暮らしも色々あるけど、たまにはこういう賑やかな出来事もいいですね〜

  5. あんまり人気スポットになるのも考えものだよ。忘却湾は、静けさと切なさを抱えているのが良かったのになあ。次々に観光客が押し寄せて浜辺の精霊たちも落ち着かないかも?もうちょっと控えめに楽しんでほしい気もする。