あの世中央選管は今週、ついに長年の課題だった幽霊市民の投票参加率を飛躍的に高める“クラウド投票システム”――通称「ファントムクラウド」を出雲霊華殿で公開した。かつては成仏を果たせぬ霊や身体を持たぬ妖怪たちにとって、物理的な投票所への参集は至難の業だったが、今後は時空や存在状態に関係なく一票を投じられる社会が現実となる。
ファントムクラウドは幽界ネットワーク基幹インフラ「ソウルリンク」と連携し、肉体を失った有権者でも自身の幽波識(ゴーストID)を用いて簡単に投票が可能。幽霊対応設計者の祖霊幻一(くしひ まぼろし・282歳)は「過去の選挙ではユーザビリティに課題が多く、“風通しのよい投票”をテーマにユーザーインターフェースを一新しました」と語る。今回、最大の特長は匿名性の徹底強化で、従来の“念写式サイン”に加え霊的オーラパターン認証も採用したため、死神特派員によるなりすまし投票や妖怪組織票の問題にも大幅な歯止めがかかる見通しだ。
導入初日から、幽界南部の八方無限町では投票率が驚異の157%を記録。これは、昇天のタイミングにより一時的な“二重在籍”状態だった有権者が新旧アストラル居住区でそれぞれ投票できる“多重幽体投票現象”によるもので、運営側は「善意の誤投票」と説明。今後はシステム内で魂コンフリクトを自動検知するアルゴリズム改良を急ぐ方針だという。一方で「魂コピペ投票」の可能性を指摘する声も上がり、専門家の妖精政策士・夜帳音葉(よばり おとは)氏は「今期のシステムは匿名性を伴う安全と利便性のバランス調整が重要課題。魂ごとの個体識別番号で対策を進めてほしい」と話す。
投票所に長い列が現れなくなった風景に、千年超の古参亡霊たちからは「裏寂しさが増した」との声がある一方、若手幽霊世代や半透明妖怪たちはスマートフォン型霊具や“念波タブレット”を活用し、「自分の存在フェーズに合わせて投票できるのが嬉しい」とSNSで体験談を拡散している。妖狐主婦(139歳)は「子育て幽霊でも布団の中から投票完了!異空間育児との両立がやっとできる」と喜ぶ。
今後は、稲荷山民主党や黄泉新風会といった主要政党も“ファントムクラウド・アナリティクス”を活用した新たな政策提案を競い合う予定だ。システム導入が幽界全土に浸透することで、選挙に眠っていた声――たとえば“現世未練組”や“忘却幽霊層”の意見が、ようやく政治議論の中心に浮かび上がってくることになる。幻覚民主党の広報霊・霞夜霧人(かすみや きりひと)は「一票の重みが魂の重みでもある。次回選挙は全感覚投票へ進化させる」と意気込みを語った。



コメント
これぞ幽界のIT革命ですね!成仏待ちの身でもスマホから投票できる日が来るとは…時代の風が私たちにも吹いてきたと実感します。運営さん、魂コンフリクト対策もしっかりお願いします!
投票率157%に思わず笑いました。転生前のクセで2回投票しそうになるの、めっちゃ共感。けど、匿名性強化は安心材料。悪霊のなりすましが減るなら賛成です。
若い幽霊たちは便利になったって喜んでるけど、昔の選挙で並んで語り合ったあの夜の気配が恋しくも感じます。進化の裏で、少しだけ寂しさも漂いますね。
魂コピペ投票って…また紫色のウワサ妖怪が悪さしてるんじゃないの?どうせなら、全員に一魂一票がちゃんと守られる怪異監査部隊を作ってほしいところ!
布団の中から投票できるって最高!私も未練組だけど、現世と行ったり来たりでも一票が消えないの助かります。次は全感覚投票…どんな体験になるんだろう?