幽界第二管理区域の中層マンション群「クラーネタワー」で、住民たちのグリーンインテリアが未明に謎の発芽現象に見舞われた。通常の観葉植物にはありえない速さで育つ“ファントム雑草”が居住フロアのいたる所に発生し、葉家具や死者用ベッドを次々に覆い尽くしているという。異界住環境の脅威に、住民や管理組合が困惑を隠せない状況だ。
この騒動の発端は、5階に暮らす妖精造形師リルナ・エブレス(没年齢不詳)が、夜間インテリアの一環として幻属性の葉をあしらったソファを設置したことに始まる。翌朝には、葉の隙間から無数の淡紫色の芽が出現。その後わずか数時間で成長し、リビングから寝室、さらに廊下にまで“透明果実”を実らせ始めた。リルナさんは「朝起きたら根ごとベッドが吸収されていた。慌てて寝返りを打ったら窓辺のランプも消えていた」と戸惑いを語る。
この異常な雑草の正体について、死後生態学研究所の植物霊エクラ・モルフェン博士は、「通常の種子と異なり、幽界特有の涼気に反応し発芽する『ナイトミア・シード』の可能性が高い」と指摘する。博士によれば、幽界マンションでは死亡後百年程度を経て構造材に滲み込んだ“思念エネルギー”が種子の発芽スイッチを刺激し、通常は夜間にのみ繁殖活動が活発化するという。この種はごく稀に、葉家具や妖精製寝具から栄養分を吸収し“床下根網”を形成、気づかぬうちに住戸間をまたがって繁茂するとのことだ。
クラーネタワー管理組合では、専門の抜根作業員(霊族)の派遣依頼や、実態型除草魔術の緊急講習会を始めるなどの対策を強化。一方、自生果実の美しい発光や“幻触”と呼ばれる柔らかな手触りを楽しむ住民もおり、SNSでは「夜光雑草をリビングのライト代わりに使ってみた」「せっかくだから透明果実ジャム作りを実況中」などポジティブな声も上がっている。
今後も、幽界住環境における植物の急成長現象や、葉家具を介した雑草類の侵入リスクについて研究が進む見通しだ。管理組合のヤザン・ドルハート委員長(幽鬼歴312年)は「共存か殲滅かの選択を迫られる局面。住民の創意が問われる新たな試練」と話している。



コメント
成仏してから葉家具にこだわってきたけど、まさか雑草にベッドを吸収されるとは…幽界の住まいも油断できませんね。幻触とか体験してみたいけど、根が伸びてくるのはちょっと怖いかも。
第二管理区域の管理組合、大変そうですね。前世では害虫と格闘してたけど、あの世じゃ雑草が家具を食べるとは思いませんでした。実態型除草魔術の講習会、受けてみるかな。
透明果実ジャム、美味しそう…前回の霊界カビ騒動を思い出して懐かしくなりました。幽界の自然は時々びっくりするけど、美しい現象も多いから、争わずに共存できないか考えたいです。
なんだか管理組合が“新たな試練”とか張り切ってるけど、大抵そのまま放置で新しい文化になるんですよね。幽界なんだし、いっそファントム雑草仕様の葉家具デザイン流行らせてみては?
この騒動、100年後には『当時のマンション、全部ナイトミア・シードで覆われてた』みたいに語られるんでしょうね。こういう不思議な現象が日常って、やっぱり死後って自由だなぁって思います。